監督になったクローゼ(前編)W杯得点王は「一歩ずつ」進む
バイエルンU-17就任1年目でタイトル
2014年に現役を引退した元ドイツ代表FWのミロスラフ・クローゼは、ドイツ代表で研修アシスタントコーチとしての帯同を終えたあと、昨年の夏にバイエルンのU-17チームの監督に就任した。
ドイツ国内でU-17年代は、“第2のゴールデンエイジ”と呼ばれる年齢カテゴリーにあたる。生物学的に、理論上は思春期の精神的に最も不安定な時期を過ぎ、心身ともにバランスが取れた状態でサッカーを理論的にも身体的にも最も効果高く学べる年代とみなされているからだ。
ドイツ屈指の名門でその年代の監督に就任した元ドイツ代表のエースストライカーは、さっそく同年代のブンデスリーガ南部優勝という結果を出した。新シーズンの開幕を前にした『キッカー』誌のなかから読み取れるクローゼ“監督”のインタビューからは、指導者としての充実感が感じられた。
「まだ新米」。思い描く明確なキャリアプラン
ブンデスリーガ南部で優勝したことで、バイエルンのクラブ内ではさらに上のカテゴリーでのポジションも検討されており、クローゼ本人にとっても、なかなかポジションが決まらない時期が続いていた。だが、本人は引き続きU-17年代での指導を望んでおり、最終的にはクラブが折れる形になった。
「U-19の監督になるには、まだ早すぎたんだ。まだまだ学びたいからね。ときどき、試合中の変化に気づくのが遅すぎるときがある。本当なら、もっと早く修正を行わないといけないんだが。たとえば、ライン間の距離の変化だったりね」
彼はそう正確に自身の能力を把握している。「このチームを引き続き率いることができて嬉しいよ。皆にとってベストな解決策だと思っている」と話した。
このように、謙虚さに裏付けられた正確な自己評価がクローゼの特徴でもある。クラブが打診したU-19監督のポジションを頑なに拒んだ理由も、まさにこの点にある。「正直なところ、自分自身では、監督としてはまだまだスタートしたばかりの新米だと思っている。もし、自分が新しいことに挑戦するとしたら、理想的な結果を出せる100%の自信を持っていなければならない」と自身の考えを述べた。そして、「自分には、明確なキャリアプランがあるんだ」と続けている。
20歳まで7部のアマチュアリーグでプレーし、学校を卒業後は大工として職業訓練を積んできたクローゼからは、どんな職業であれ“その道のプロ”になるためには、それなりの訓練と経験を積む時間が必要だという考えが見て取れる。実際に、インタビューのなかでは、「自分はまだ監督になったばかり」というフレーズが散見される。
ワールドカップ歴代最多得点王に輝き、国を代表するストライカーになったとしても、選手と指導者の役割が全く異なることを理解しているのだ。
「多くの人とは違って、できるだけ早く上に上がろうだなんて、考えていない。ブンデスリーガは最終的な目標だけれど、時間の制限は設けていない。(トップチームの仕事に出入りするよりも)まずは、もっと自分の成長に投資して、沢山の“気づき”を経験して、学習したいんだ」
次回は、実際に監督となったクローゼが試みようとしている方法について紹介する。それはゴール前のクオリティにこだわり続けた“職人”とも言えるクローゼのサッカー観が見えるものだ。
※クローゼのバイエルンでの仕事ぶりはこちら
※ドイツU-17全国選手権準決勝、バイエルン対ケルンのフルマッチはこちら
Photo : Getty Images
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Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。