岡崎慎司、1試合も出られず契約解除
マラガが岡崎慎司の選手登録をできず、彼が公式戦に出ることなく契約解除となったことは、もう日本の皆さんには伝わっているだろう。ケコ、ファンピら高年俸の戦力外選手を放出し、サラリーキャップに岡崎の分の枠を作ろうとした。が、9月3日零時をもって移籍市場が閉まり、間に合わなかった。つまり、時間切れ。高級車を買ってローンを組もうとしたら頭金がなくて金策したが無理だった、というのと同じである。
こうなると、岡崎がサインまでに会長決済を待たされた、あの日々は何だったんだ? あの8日間が今あれば売ったり、レンタルしたりができたんじゃないか、と誰でも思う。前倒しに物事を進めておけば、計画的にやっておけば……と。
まあ、これも日本人的な発想かもしれない。こちらの人は何が起こるかわからない未来に関しては基本的に楽観的である。「何とかなるだろう」と。それは決して悪いことではない。家計が火の車でも「明日があるじゃないか」と思えば生きていける。私がスペインを暮らしやすいと思うのは、日本人的で人並みに悲観的な私も楽観的な彼らに囲まれていれば、日々が明るく見えるからだ。
だが、商売では、そんな先送り精神はまずかった。市場が閉まる最終日に近づくほど安売りや投げ売りがあるから、買い手にはお得である。が、マラガは売り手であった。タイムリミットがどんどん首を絞めていき、最後は無理でした、となった。
「国際的な恥」
「国際的な恥」という見出しが、地元紙のトップに踊っている。この汚名によって会長交代などドラスティックなことが起きない限り、将来的にもマラガCFが日本人選手の移籍先になる道は閉ざされた。観光地として魅力的なところで日本人にはその良さが十分知られていないだけに、地元の商業関係者も落胆しているだろう。
契約解除から半日過ぎ、反会長の落書きがスタジアムの壁に描かれたり、ゴール裏や弱小株主が抗議のデモを起こす、などの反応が出ている。その中に「300枚売却済みの岡崎のシャツはどうなる?」という「そこか!」というのがあった。その記事によると、クラブは返金か、他のシャツと交換を検討中で近々に発表する、という。検討すべきは、クラブマネージメントとスポーツディレクションの失策であろう。特に、会長のそれだ。契約解除発表の直前、3人の選手が駆け込みで加入した。それは現場の補強担当も監督も望んでいない選手だった。
金も出すが口も出す、というオーナー会長は珍しくない。スポーツディレクターごっこ、監督ごっこをやってみたい、という気持ちはわからないでもない。金を出さないのに補強には口を出すという、どこかのソシオ会長たちよりはましかもしれない。
日本人には変な意味で関心のあるクラブになったマラガ。あの岡崎のいたクラブ、こうなった――という後日談を、またいつかお伝えしたい。
Photo : Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。