その名も「フラット・アースFC」
みなさん、「地球平面説」というのをご存知だろうか?
「月面に人類行ってない説」というのは知っていた。まあとんでもないことを信じる人たちがいるもので、映画『ファーストマン』のモデルで月に立ったニール・アームストロング船長以下、殉職した宇宙飛行士の家族が聞いたらさぞ怒り呆れるだろうな、と思っていたら、その1人に有名なサッカー人がいた。イケル・カシージャスである。昨年7月、その私見をツイートで披露したら、スペイン人宇宙飛行士のペドロ・ドゥケから反論が来た。
「事実はどんな意見によっても変わらない。宇宙船は月に着き、足跡、レーザー反射板は今も残されている」
まあ、月面着陸はでっち上げだったとか、ビデオはキューブリックが撮った、と思いたくなる人がいるのは想像の範囲である。だが、地球が平面だ、というのはどうなのか? あまりにとんでもなさ過ぎて私の想像を超えていたが、いや、確かに存在するのである。「平面の地球が」ではなく「そう信じる人たちが」である。
今季からマドリッドの3部リーグ(4部相当)に「フラット・アースFC」が参戦中だ。
これはその名の通り、地球が平面であると信じる人、ハビエル・ポベス会長によって設立された、地球平面説者による、地球平面説者のためのサッカークラブである。公式WEBには「我われと一緒に世界を変えよう」とあり、シャツやマフラーを販売している。
「宇宙はでっち上げで、NASAは詐欺だ」
ポベス会長がサッカークラブを選んだのは、自身が元プロ選手(ヒホンでプレー経験あり)であり、地球平面説拡散のためにメディアに取り上げられるにはサッカーが最高の方法だと考えたからだ(それは成功している。こうして日本のメディアにも取り上げられているのだから)。
クラブ設立のために私財を投入し、昨シーズン地方リーグから3部リーグに昇格したのを機に改名した。エンブレムは国連のエンブレムに酷似しており、中央に地球が描かれている。そこには、地球平面説者の一部から存在を否定されている南半球のオーストラリアもちゃんと載っていて普通なのだが、これは平面の地球を真上から見た図であるらしい。
応援歌の歌詞にはこうある。
「水は曲がらない。地平線は水平だ」
「宇宙はでっち上げで、NASAは詐欺だ」
「科学はすべて嘘だ」
肝心のサッカーでは、先週末の開幕節に見事アウェイ勝利しグループ7で首位に立った。もし今季昇格すれば来季は2部B(3部相当)でレアル・マドリーのBチームと同じグループに所属するかもしれず、会長の夢、1部リーグに一歩近づくことになる。
地球は大きく世界は広い。いろんな人がいるものである。
Photo : Getty Images
TAG
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。