レアル・マドリーとバルセロナの綱引き
毎朝、スポーツ新聞のページを開くと、ネイマール関連のニュースが飛び込んでくる。
「レアル・マドリー、ネイマールの足について保証を要求」
ここ2年ほど負傷が相次いだネイマールの古傷が再発した場合、パリ・サンジェルマン側へ何らかの賠償金を要求するというもの。大金を払うのだから、古傷は完治している、という確証が欲しいのであろう。
「ロッカールーム、ネイマール獲得についてバルトメウ会長の姿勢を疑う」
選手たちの誰かがネイマールに連絡を取って、バルセロナが出したオファーの内容が契約金1億4000万ユーロ(約165億円)だというのを聞き、“少な過ぎる、本当に取りに行く気があるのか”と不信感を抱いたという話である。
この2つを読み比べて私が出す今日の結論はこうである。
「ああ、ネイマール、レアル・マドリー側に傾いたのね。1週間前まではバルセロナ入りが時間の問題みたいだったけど」
スペインの夏の移籍市場は9月2日に閉まる。パリ・サンジェルマンが本当に厄介払いしたいのなら、そろそろ値下げを考えないといけないし、レアル・マドリーとバルセロナが本当に欲しいのなら、移籍金の調達やチームの人数合わせをしなければならない。選手を売らないといけないのなら、今すぐでも手を付けないといけない。玉突き移籍やトレードもあるかもしれない。
こうした余波を加えて、今後はさらに報道合戦が過熱するだろう。夏の噂話がどういうフィナーレを迎えるのか、毎朝、新聞を開くのが楽しみだ。
相手に獲られた時点で「負け」
個人的にはネイマールがどっちに行くかには興味がない。チーム作りの必要性、つまり監督の要請で獲りに行っているようには見えないからだ。むしろ、「来たら、ジダンもバルベルデも大変だな、お気の毒」と同情したいくらいだ。
バルセロナにはネイマールが入る場所がない。
[4-3-3]ならFWは3人まででレギュラーはメッシ、ルイス・スアレス、グリーズマンで埋まっている。4人目はベンチで控え、という運命である。5人目のデンベレは完全に余る。それで回せるのならベストでネイマール加入はプラスだが、誰かがベンチや招集外となれば文句たらたらのはずなので、そのマイナスを勘案すると大した上積みにはならない。
レアル・マドリーの方が必要性が大きい。
今のメンバーは将来性は豊かだが、夢がない。スター候補はいてもスターはいない。アザールは確かな戦力であっても夢を売れる選手ではない。グリーズマンが加わったバルセロナのようなファンを夢想させるものがない。サッカーのようなエンターテインメント産業にとって、幻想は時には現実よりも大事である。
他方、ジダンにとっては“また左サイドかよ”であろう。ビニシウスとアザールとネイマールが重なる。ビニシウスを切れば若いから文句は言わない、という意味ではバルベルデ側よりはプラスが大きいとは思う。
ところで、両方には共通する強い必要性がある。それが、「宿命のライバルに負けることは許されない」という強烈な願いである。すでに述べたように、ネイマールのクオリティはマイナスには決してならないがどこまで戦力アップになるかは未知数。しかし、ネイマールを相手に獲られた時点で「負け」であることははっきりしている。場外戦のクラシコでの完敗なのである。
過去にもカランブーをめぐる争奪戦で同じ様なメディアに煽られた綱引きがあった。「どう転んでも面白いな」、そんな興味本位で、残り1週間ほどを楽しみたい、と思う。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。