プレミア開幕戦で華麗なるデビューゴール
プレミアリーグの開幕節に、ファンだけでなく「犬」まで笑顔にさせる選手がいた。それが今夏スウォンジーからマンチェスター・ユナイテッドに加入した、ウェールズ代表MFのダニエル・ジェイムズ(21歳)である。
今年6月にユナイテッドの補強第1号が発表された際、多くの人が耳を疑ったはずだ。ジェイムズは、昨季スウォンジーでリーグ戦4得点7アシストの活躍を見せたとはいえ、それはあくまで2部リーグでの話である。ユナイテッドが、それも1800万ポンド(約23億円)もの大枚をはたいて獲得するだけの価値があるのか、誰もがそう疑問に思ったことだろう。
だが、フタを開けてみればプレミア開幕節のチェルシー戦で途中出場からゴールを決めると、第2節のウルブズ戦ではスタメンの座も勝ち取った。ウルブズ戦では決定機を作り出せずに、“ダイブ”で少々批判を集めることになった。とはいえ、開幕戦のゴールは間違いなく涙を誘うものだった。子供の頃からの憧れであるユナイテッドでのデビューゴールを決めたあと、ジェイムズは両手を天にかざしたのだ。
今年5月に他界した父親に捧げたのだろう。彼は「必ず父さんの誇りになる。安らかに眠って」と、60歳の若さで亡くなった父にSNSで誓っていたのだ。そして先月も「毎日のように父が恋しい」と少し弱音を吐きつつも、「でも父ならば絶対に努力し続けろと言うはずだ。父は天国から見守ってくれているんだ」と話していた。
だからこそ、あのゴールは感動を呼んだし、彼の家族にとっては忘れられないゴールとなった。そして、その家族には“新メンバー”が加わっていた。昨年11月にガールフレンドから誕生日プレゼントとして贈られた子犬である。そのキュートな子犬は、サプライズプレゼントを贈られたジェイムズの愛くるしいリアクションと共にSNSで反響を呼んでいた。
ある日、ジェイムズが試合から帰宅してリビングに入ると、ソファーの上に小さな子犬が置かれていたのだ。それに気付いたジェイムズは、口を抑えて「信じられない」といった表情で近づき、「お~」とため息を漏らしながら優しく子犬を撫で始めた。
数日後には、ヒューゴくんと名付けた愛犬と一緒に、当時所属していたスウォンジーのクラブTVでインタビューに応じていた。実はジェイムズは以前から犬を飼いたくてガールフレンドにおねだりしていたという。そして念願かなって、新たな家族を迎え入れることになったのだ。ヒューゴくんは、その後の成長した姿から判断すると恐らく「ラブラドゥードル」だろう(確証はないが)。ラブラドゥードルは、プードルとラブラドール・レトリーバーを掛け合わせた犬種で、近年日本でも人気が高まっているという。
いずれにせよ、愛犬を抱きかかえた瞬間に、彼のユナイテッド入りは決まっていたのかもしれない。ロイ・キーン、アレクシス・サンチェス、そしてジェイムズ。ユナイテッドの愛犬家の系譜は引き継がれていくようだ。ちなみにロイ・キーンは、愛犬の自叙伝まで出しているので、またいつか紹介しようと思う。
Photos: Getty Images
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。