プレミアにVARがやってくる。「最小の干渉で最大の効果を」
リーグ特有のスピード感を維持できるか
好むか好まざるかに関わらず、新シーズンのプレミアリーグにはVARがやってくる。8月9日のリバプール対ノリッチを皮切りに、全380試合で、VARが導入される。
過去2年間で欧州トップリーグのほとんどが導入し、チャンピオンズリーグや男女のワールドカップでもすでに採用されているが、攻守の切り替えが速くスピーディーなプレーがファンの熱狂を生み出すイングランドはリーグの性質上、どうしても試合の遅延や流れの分断を招くVARの導入には、他国と比べて非常に慎重だった。だが、その分、他の大会での事例をしっかりと分析し、昨季からは先んじてFAカップやリーグカップで導入するなどして綿密なテストを重ねた上で、満を持して今季から導入する運びとなったのだった。
「我々は2年間にわたって(テストに)取り組んできた。他の大会よりも遅くなったが、準備はできた」
プレミアリーグの暫定CEOを務めるリチャード・マスターズ氏は英『スカイスポーツ』でそう言っている。いわく、「プレミアリーグの“ペース”や“パッション”を妨げることは望んでいない」といい、主審の主観的な決定にVARが介入するための「基準は高く設定している」。ピッチ上のレフェリーたちと、ロンドン西部のストックリーパークに拠点を置くVARチームは試合中、常にコンタクトを取り、フィールド上で審判が見たものと、ビデオ映像が示す事象に矛盾があった場合のみ、VARが介入する。
その対象は、「ゴール」「PK判定」「一発退場」「選手誤認」の4種類で、それらに関わる場面で「明確なエラー」や「重大な未確認事象」があった場合に限られるとのこと。つまりゴールキックかコーナーキックか、どちらのスローインか、イエローカードを出すべきか、またはゴールに関わらないオフサイドといったシチュエーションではレビューされない。目指すところは、「最小限の干渉で最大限の効果を」ということらしい。
また、イングランドの審判協会は、レフェリーにはモニターのビューエリアを「極力使わないよう推奨」しているという。VARのアドバイスが主審の判断・予想と大きく外れる場合を除き、彼らがタッチラインの外へと走っていく回数をできるだけ減らすことで、試合の流れを阻害するのを防ぎたい考えだ。
モニターで確認すべきシーンがあった場合も、主審はリプレイを「3回」チェックし、より精査の必要があればスローモーションまたはズーム映像を見るというガイドラインを設けている。3回見て問題が発見できないのなら、明らかなエラーはなかったという考え方だ。先日の女子ワールドカップではレフェリーが「29回」も映像を見直し、判定を下すまでに4分半もかかった場面があったため、そうした時間の浪費を避けるための基準だ。
VARがプレミアリーグにもたらすのは、果たして混乱なのか、さらなる興奮なのか。イングランド・フットボールはこのテクノロジーの波に、シームレスに乗れるのだろうか? 他の大会と同じように、最初のうちは賛否両論、さまざまな議論が巻き起こることだろうが、リーグの優勝争いやCL出場権をめぐる争いと同様に、その行く末にも注目してみたい。
Photo : Getty Images
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寺沢 薫
1984年生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』編集部を経て、2006年からスポーツコメンテイター西岡明彦が代表を務めるスポーツメディア専門集団『フットメディア』に所属。編集、翻訳をメインに『スポーツナビ』や『footballista』『Number』など各媒体に寄稿するかたわら、『J SPORTS』のプレミアリーグ中継製作にも携わった。