クライファートがバルサの下部組織に?
バルセロナがパトリック・クライファートを下部組織のコーディネーターに就任させようとしている、というニュースが出ている。
クライファートはご存じの通り、バルセロナでプレー経験があり(98〜04年)、育成に定評があってプレースタイルが似ているアヤックスの下部組織出身である。彼をコーディネーターにして、滞る下部組織出身者のトップチーム定着を促そう、という狙いらしい。
だが、クライファートが就任したからといって、近年、下部組織出身でトップチームに定着したのはセルジ・ロベルトだけ(トップチームデビューは2010年11月)という状況が変わるかどうかには大いに疑問がある。
大体、誰をトップチームでプレーさせるかを決めるのは監督であり、周りができることはせいぜい推薦することだけである。トップチームの選手選択の全権と引き換えに、チームのスポーツ的全責任を負うのが監督というもの。バルトメウ会長もスポーツディレクター(SD)のエリック・アビダルも手が出せないこの監督の聖域を、下部組織のコーディネーターごとき(失礼!)が侵せるわけがない。下部組織の最高責任者にはすでにホセ・マリ・バケーロとギジェルモ・アモールというクライフに育てられた者たちが就いてもいるのだ。
よって、下部組織出身者をより良くプロモーションしようとすれば、育成に理解ある監督を就任させる方がはるかに効果がある。セルジ・ロベルトをデビューさせたグアルディオラは4年間で計22人の下部組織出身者をデビューさせた。対して、現監督のバルベルデは2年間で7人のみ。下部組織出身者のクオリティが急落したという可能性もゼロではないものの、この数字に監督の好みが反映されているのは間違いない。
とはいえ、バルベルデを責めるのはお門違いだろう。彼はチーム成績の責任者であって下部組織のプロモーション役ではないからだ。“タイトル獲得のために最善の選択をした結果”と言われたら、反論できる者が果たしているだろうか?
もうひとつ言えば、トップデビューとトップチーム定着は別問題である。先の22人のうちトップチームに定着できたのはセルジ・ロベルトとブスケッツの2人しかいない。今夏グリーズマンとフレンキー・デ・ヨングが加入したことは下部組織出身者用の枠を確実に2つ減らした。トップチームの壁は高く、会長とSDが手掛ける補強戦略がその壁をさらに高くしているのだ。
以上のような状態でクライファートが就任しても何も変わるわけがない。フロントのただの人気取りに見える。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。