黒、白、黄色の「トリコロール」。天野純が移籍したロケレンとは?
7月5日、横浜F・マリノスに所属していたMF天野純が、ベルギー2部のスポルティング・ロケレンへと移籍することが決定した。今シーズンから天野がプレーするこのクラブについて触れておきたい。
スポルティング・ロケレンは、ベルギーの北半分を占めるフラマン語(オランダ語)共同体にある、オースト=フランデレン州の人口4万人の都市、ロケレンをホームとする。1923年に設立され、今年で96年の歴史を刻んでいる。ホームスタジアムは12,000人収容のダクナムスタディオン。黒、白、黄色の3色がクラブカラーで、「トリコロール」の愛称で親しまれている。
1960年代までは下部が定位置だったが、70年代半ばに1部昇格を果たすと、当時のポーランドの名選手、ボジミエシュ・ルバンスキ、グジェゴジ・ラトー、エルケーア・ラルセンらが活躍し、1980年には歴代最高順位である2位まで上り詰めた。1980-81シーズンにはUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)に出場し、ディナモ・モスクワ、レアル・ソシエダなどを破り、ベスト8まで進出している。
伝統的に外国人タレントの発掘に力を入れており、80年代には、エイドゥル・グジョンセンの父親であるFWアルノー・グジョンセン、90年代には若手時代の元チェコ代表FWヤン・コレルらがプレーしている。近年ではアイスランドリーグのストヤルナンからデンマーク人DFアレクサンダー・ショルツ(現コペンハーゲン)、南アフリカリーグのASDケープタウンからFWアヤンダ・パトシなど、幅広く獲得している。また京都サンガ、鹿島アントラーズでプレーしたブラジル人FWジュニオール・ドゥトラが2013年から2年間プレーしたことや、2016年にセレッソ大阪でプレーしたマケドニア代表MFベサルト・アブドゥラヒミがロケレンからの加入だったことなど、Jリーグともやや馴染みがある。
2000年に経営難により、近郊のシント=ニクラースSKEと合併。2000年代は残留争いが定位置だったものの、2010年にペーテル・マース監督が就任すると、アフリカ屈指の実力を誇ったコートジボワール代表GKブバカル・バリー、後に3度のリーグ得点王になるチュニジア代表FWハムディ・ハルバウィ、後にクルブ・ブルッヘで2度の年間最優秀選手になるMFハンス・バナケンらを擁し、レギュラーシーズンで6位以内のクラブが優勝を争う「プレーオフ1」に3度進出した。ベルギーカップは2012年、2014年の2度優勝を果たし、アンデルレヒト、スタンダール・リエージュといった強豪とも互角に戦えるほどの実力を誇った。
2度の監督交代と23年ぶりの降格
2015年、ロケレンの最盛期を築いたマースがヘンクへ引き抜かれると、主力選手も立て続けに引き抜かれ、戦力は大幅にダウンした。それからは毎シーズン監督交代を余儀なくされ、順位も2ケタ台が定位置となった。
17-18シーズンにマース監督がロケレンへ復帰するも、勢いを失ったチームを立て直すことはできず、2018年10月にあえなく途中解任。3カ国でチームをリーグ優勝に導いているノルウェー人のトロント・ソリードを新監督に招聘するも、弱りきったチームの立て直しはやはり難しく、3カ月でわずか1勝止まり。最下位に沈み、シーズン2度目の監督交代となった。グレン・デ・ブーク監督が火中の栗を拾うことになったが、チームは最下位から抜け出すことができず、第28節のアンデルレヒト戦での敗戦により、2試合を残して23年ぶりの2部降格が決定した。チーム得点王がエクアドル人MFホセ・セバージョスの4得点、チーム全体でもシーズンわずか28得点と得点力不足が大きな原因となった。
ロケレンを象徴する2人のベテラン
こうして新シーズンは24年ぶりに2部リーグで戦うロケレン。天野の他には、1年での昇格を目指し、35歳の元ベルギー代表センターバック、イェーレ・ファン・ダンメを獲得している。かつてはアヤックス、アンデルレヒト、スタンダール・リエージュなどで活躍し、ドイツ、イングランド、アメリカにも渡ったベルギー代表32キャップの実績を持つベテランは、6歳の頃にサッカーを始めた地元のロケレンに18年ぶりの復帰をすることになった。スタンダール時代には、川島永嗣、永井謙佑、小野裕二と共にプレーし、強烈なリーダーシップでチームを牽引していた姿を覚えている人もいるだろう。
ロケレンのキャプテンは、33歳のセントラルMFキリアン・オーフェルメイレが務める。1994年にロケレンの下部組織に所属してから、25年間、ロケレンひと筋でプレーするベテランだ。10代から将来を期待され、同年代のバンサン・コンパニ、トーマス・ベルマーレンらと共にベルギーの各年代別代表にも名を連ね、2008年11月にはA代表デビューを果たしている。ボール奪取に長けたMFで、500試合長の出場歴を持ちながら退場は3度と少なく、クリーンな守備を持ち味とする。移り変わりの激しいチーム事情におきながら、常に「ロケレンの顔」としてチームを牽引してきたのがオーフェルメイレだ。
ベルギー2部は、2ステージ制を採用。8チーム総当たり2回戦で1ステージを戦い、首位のチームがステージ優勝者となり、3月に行われる昇格プレーオフ決勝戦への切符を手にする。昇格枠が優勝チームのみの1枠と厳しい2部。1部リーグ最小得点で降格したロケレンにとっては、天野の活躍は必要不可欠。天野の活躍とロケレンの1年での復帰に期待したい。
Photos: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。