ブンデスリーガの1部および2部の選手に対して、シーズンが始まる前に脳のスクリーニング検査が義務付けられることになった。6月26日、ドイツのスポーツ専門誌『キッカー』が報じている。
健康な脳の状態を数値化し、データとして保管
このスクリーニング検査は、これまで長期にわたって議論されてきた脳震盪をはじめとする脳の損傷や障害などの診断をより正確なものにするために行われる。シーズン前の健康な状態の脳のさまざまな部位や機能を検査し、平衡感覚や認知に関する各特徴を調べていく。
こうして得られたデータは、その選手の標準値「ベースライン」としてデータバンク化される。仮に選手が頭部を負傷したときに、チームドクターたちはこの「ベースライン」と比較して、どれだけ脳にダメージがあるのか、そして復帰までにかかる時間がどれほどなのかを正確に判断できるようになるという。
サッカー選手が“パンチドランカー”になる可能性
競技による脳のダメージへの影響に関して、調査が進んでいるのは米国のアメリカンフットボールだ。元NFLの選手の多数が、慢性外傷性脳症(CTE)、いわゆる“パンチドランカー”の診断を下されていたことに注目して研究が進められているようだ。
サッカー界ではまだ長期的な調査結果が出ておらず、スポーツ医療の専門家たちからは批判も出ていた。
2017年に、元イングランド代表でニューカッスルのストライカーとして長らく活躍したアラン・シアラーが自身のドキュメンタリーで、自身がCTEの可能性があることについて言及し、話題を集めた。
とりわけ、空中でのヘディングの競り合いによる頭の衝突が主な原因と見られている。
この2017年の英国での調査では、サッカー選手がパンチドランカーを患う可能性は、ボクサーやアメリカンフットボールの選手のものと近いという。
データを活用し、最善の治療を
DFL(ドイツサッカーリーグ機構)のアンドレアス・ナーゲル氏が「DFLとクラブは、選手の健康のケアを行う義務を自覚的に引き受けています」と話せば、DFB(ドイツサッカー連盟)の医療委員会長のティム・マイヤー氏は、「『ベースライン』スクリーニングを行うことで、チームドクターの仕事は軽減されるでしょう。これにより、選手の頭のケガに対して、理想的な治療を確実に行えるようになります」と説明している。
選手の安全と健康を保護する動きは、これからますます発展していきそうだ。国際的にも、これからこういった動きが広まっていくだろう。
Photos : Getty Images
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鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。