現地スペインの温度感は?
久保建英のレアル・マドリー入団はスペインでも大きな話題になっているが、それは彼のタレントのせいだけではない。バルセロナの下部組織出身で18歳になりFIFAの規定を満たせば復帰するものと思われていた選手を、レアル・マドリーが横取りしたからである。
若手有望株のBチームへの移籍なんて本来のニュース価値から言えば大したものではないが、レアル・マドリーがしてやった、バルセロナがしてやられた、という“番外クラシコ”の構図で余計に騒がれているわけだ。
かつてアセンシオを横取りされたバルセロナで、今でも彼が活躍する度にフロントの失策が蒸し返され、今季のように調子が悪いと「獲らない判断は正しかった」なんて声が出るのと一緒である。
特別扱い(の疑い)なんて百害あって一利なし
ひとつ気になることがある。
「2年目にトップチーム入り」とか「トップチームの練習に参加」とかが契約条件に含まれている、という報道がある点だ。これは誤報であってほしい。特別扱い(の疑い)なんて百害あって一利もない。
たとえば、エンツォ・ジダンである。彼はBチーム、カスティージャでレギュラーとなり、キャプテンに抜擢され、トップチームの練習参加の常連となり、ついにはトップデビューも果たしたが、その苗字のせいで父の七光りとされて揶揄された。たとえば、マルティン・ウーデゴールである。彼の試合出場やトップチームとの合宿参加は、契約条件に含まれていたからだ、とされた。
両者とも本人のスポーツ的なメリットではなく、プレー以外の要因による成果と見なされたことでチームから浮き、レンタルに活路を見出さざるを得なかった。
ただでさえ激しいチーム内競争に嫉妬や偏見がミックスされれば、才能を開花させるどころではなくなる。仮に、そんな逆風を跳ね返しトップチームに上り詰めるという快挙に対して、実力ではない、なんて陰口を叩かれてはたまったものではない。
サッカーは実力の世界だが、移籍金を吊り上げるためとか、スポンサーの意向などが介入することはゼロではない。そして、そういう“大人の事情”の噂が立った選手で大成した例を知らない。
特別待遇の要求が本当にあったとすれば、レアル・マドリーをナメている。トップチームとBチームの交流は盛んに行われており、相応しい実力がある者を引き上げないほど、スカウトの目は節穴ではなく、実力のない者を引き上げて周りのモラルを低下させるほど馬鹿でもない。完全に実力の世界で、それは久保にとっても望むところのはずだ。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。