女子イングランド代表のオシャレなW杯メンバー発表
7日に華々しい開幕を迎えた女子ワールドカップ。今大会は賞金から何から過去最大規模となっており、出場国はどこも盛り上がっているようだ。
なかでも初優勝を目指すイングランドの意気込みは相当なものだ。ウィリアム王子が代表メンバー発表の動画に出演するなど、国をあげて“ライオネシズ”をサポートしているのだ(ちなみに、男子代表の愛称が“スリー・ライオンズ”なので、女子代表は雌ライオンの複数形で“ライオネシズ”と呼ばれている)。
このメンバー発表が一番話題になったのはイングランドだ。前述の通り、5月8日にSNSで代表メンバーを発表する際に、少し工夫を凝らして23名の著名人がそれぞれ1人ずつメンバーを発表したのだ。
ツイッターなどで目にされた方も多いと思うが、最初に登場した著名人こそがイングランド・サッカー協会の理事長を務めるウィリアム王子だった。王子がキャプテンのステフ・ホートンのメンバー入りを発表すると、同じような流れで女優のエマ・ワトソンや元イングランド代表のデイビッド・ベッカムに、現役代表選手のラヒーム・スターリングなど豪華な著名人が登場して選手を発表した。
これは女子代表チーム、ひいては女子サッカー界を盛り上げる素敵な試みだと思う。しかし、それ以上に感心させられたのが、ライオネシズを率いるフィル・ネビル監督の気遣いだった。
実はW杯に出られなかった代表監督
P.ネビルはイングランド代表59キャップを持つ。欧州選手権には3大会出場した。だが、実はW杯だけは一度も出場できなかった。1998年から3大会連続で代表候補に選ばれながら、最後の最後に切り捨てられたのだ。
先日、これも女子代表を盛り上げるためだが、『BBC』で代表チームのドキュメンタリーが放送された。その中でP.ネビルは、選手たちに落選の苦い記憶を語った。98年大会ではアシスタントコーチから「当確」と言われながら、数日後に監督に呼び出されて落選を知った。そして「30分以内に荷物をまとめてチームを出なさい」と告げられたのだ。
2002年大会では、アシュリー・コールが負傷したので「君は当確だ」とスベン・ゴラン・エリクソン代表監督に言われたそうだ。だが奥さんとデパートで買い物していると電話がかかってきて落選を告げられた。次の2006年大会も買い物中に電話で落選を知らされた。
P.ネビルは「何が言いたいかというと、デパートに行くなということだ!」と冗談を飛ばしたあと、選手たちに熱く語り出した「だから俺はW杯に出て優勝したいんだ。このメンバーなら優勝できる。そう思うと鳥肌が立つんだ」。
落選した選手たちの想いを背負って
そして自身の経験を踏まえて、メンバーの発表方法を選手たちに相談した。あの豪華な動画ではなく、その前日にどうやって本人たちに伝えるかだ。ネビルは気乗りしなかったが、選手たちの意向によりEメールで通達することになった。そのあとで、説明を希望する者にだけ電話をした。当選メールは23通。落選メールは13通だった。
「私が誇りに思うのは落選した選手たちの反応なんだ」
そうP.ネビルは説明する。「夢を引き裂かれた瞬間の気持ちは私も痛いほど分かる。でも、彼女たちは『監督、(フランスに)乗り込んで優勝してきてください』と言ってくれたのさ」。
9日にグループステージ初戦のスコットランド戦を迎えるライオネシズは、国民の期待、何より落選メールを受け取った13名の想いを背負って、ピッチに立つのだ。
Photos : Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。