ベルギー最多優勝の名門が大苦戦
2018-19シーズンのベルギーリーグは、ヘンクの8年ぶり4回目の優勝で幕を閉じた。一方で、最多優勝を残るアンデルレヒトは、プレーオフ1ではわずか1勝止まりで、実に56年ぶりに欧州カップ戦出場を逃した。
2017年12月、当時オーステンデの会長を務めていた国内製薬業界トップのオメガファーマの創業者マルク・クッケ氏が、アンデルレヒトの買収を発表した。オーステンデの会長職をピーター・カラント氏に引き継ぎ、翌年2月に会長に就任。自転車ロードレースで成功を収めたベルギー随一の富豪による買収により、名門アンデルレヒトの復活が期待された。
会長とともにアンデルレヒトへ移ったスポーツディレクターのリュク・デブルーは、古巣オーステンデからクロアチア代表DFアントニオ・ミリッチ、ジンバブエ代表FWノーリッジ・ムソナを引き抜き、ボルフスブルクから元オーステンデのU-21ベルギー代表FWランドリー・ディマタを期限付きで獲得。さらにバレンシアから元ベルギー代表FWザカリア・バッカリ、カーンからクロアチア代表FWイバン・サンティーニ、メヘレンからU-21ベルギー代表DFエリアス・コボー、デンマークのミッティランからガンビア代表DFブバカル・サネーを獲得。
13人を獲得する一方で、MFレアンデル・デンドンケル(→ウォルバーハンプトン)、FWウカシュ・テオドルチュク(→ウディネーゼ)、DFカラ・エムボジ(→ナント)など主力を放出し、大型刷新を試みた。
昨シーズンからチームを率いるハイン・バンハーゼブルック監督のチームは、主力にはMFアドリアン・トレベル、若手有望株のMFピーテル・ゲルケンス、DFアレクシス・サーレマーケルス以外は、ディマタ、ミリッチなどの新加入、またはDFセバスティアーン・ボルナウ、FWフランシス・アムズら下部組織からの昇格組が並んだ。そして新加入組のディマタ、サンティーニの活躍により、チームは開幕4連勝と絶好のスタートを切った。
「史上最悪のアンデルレヒト」
ところが、第5節にクルブ・ブルッヘに敗れる(1-2)と、次第にチーム状態が悪化していく。フィジカル任せで、単調に縦パスを送り続けるサッカーは対戦相手にすぐに読まれ、第7節にはヘンクにも敗戦(0-1)。シントトロイデン、オイペンなど格下にも敗れ、首位争いを演じるヘンク、クルブ・ブルッヘとの勝ち点差がどんどん離れていく。ヨーロッパリーグも、3分け3敗と未勝利のグループステージ最下位で終了。バンハーゼブルックが率いるチームは、ベルギーのサッカー解説者から「史上最悪のアンデルレヒト」と批判を受け、第19節のセルクル・ブルッヘ戦での敗戦により6位に順位を下げたところで、監督解任。ヘントではチームをチャンピオンズリーグの16強に導いた同監督だったが、アンデルレヒトでは20年ぶりにタイトルを獲得できなかった不名誉な監督となってしまった。
1月からは、シャルケ、PSVなどの監督を歴任したオランダ人のフレット・ルッテン監督が就任。チームの掌握に時間がかかり、第24節のスタンダール戦での敗戦により一時は順位をプレーオフ1圏外の7位に下げたものの、冬の移籍市場で獲得したDRコンゴ代表FWヤニク・ボラシー、17歳の新鋭MFヤリ・ベルスハーレンらの活躍により、なんとかレギュラーシーズンを4位で終了し、最悪の事態は免れた。
プレーオフ1で逆転優勝を狙ったアンデルレヒトだったが、第1節のヘンク戦で0-3の敗北を喫すると、クルブ・ブルッヘ、アントワープにも敗れ3連敗。第4節のスタンダール戦では開始30分で2失点を食らい、不甲斐ない戦いを続けるチームに対し、サポーターが暴動を起こす事態に発展。発煙筒が投げ込まれ、没収試合となった(のちに0-5でスタンダール勝利という扱いに)。
今季2人目の監督だったルッテンも退任し、残りの6試合はアシスタントコーチのカリム・ベルホシンが監督代行を務めることになったが、プレーオフ1はそのままわずか1勝で終わり、6位でシーズン終了。アンデルレヒトは56年ぶりに欧州カップ戦の出場権を逃した。
コンパニは救世主になれるか?
失意のシーズンを送ったアンデルレヒトは5月19日、マンチェスター・シティを退団したバンサン・コンパニのプレイングマネージャー就任を発表した。
稚拙なマネジメントと度重なる監督交代により、競争力が低下してしまったチームを立て直すのは、監督としては新人であるコンパニにとっては非常に酷な仕事と言え、期待の一方で「批判を背けるためのサプライズ」という見方もされている。
しかし、11年間にわたってマンチェスター・シティを支え、成長させてきたコンパニの存在は、代表選手が少ないベルギーリーグにおいては必ずや貴重な存在となる。最優秀ヤングプレーヤーに選ばれたMFベルスハーレンを筆頭に、DFボルナウ、MFサーレマーケルスら若手有望株が、コンパニの指導の下で大きく成長することに期待したい。
Photos: Getty Images
Profile
シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。