ないない尽くしで資金がショート
『フットボリスタ』本誌の第65号でお伝えしたスペイン2部の給料未払いクラブ、レウスのその後をお知らせしよう。スモールクラブを買い取って自分の力で大きく強くする。それはサッカーを愛する者の究極の夢かもしれないが、ほとんど失敗に終わる。アラベスを買ったロシアの富豪ディミトリー・ピーターマンから、現在マラガとともに2部に転落中のカタールの王族アリ・タニまで死屍累々。成功したのはフェルナンド・ロイグ会長のビジャレアルくらい。シンガポールの富豪ピーター・リムのバレンシアは、チャンピオンズリーグ出場を確実にした来季以降の歩みを見なければならない。
元バルセロナ会長ジョアン・ラポルタの右腕として活躍したジョアン・オリベルのレウス強豪化プロジェクトには、そもそも無理があった。バルセロナ近郊の人口10万人のスモールタウンで産業もサッカーのカルチャーもない。スタジアムの収容人数は4000人、そのスタジアムは市の所有で資産もない。オリベルはバルセロナやラージョ・バジェカーノのフロント入りした経験はあったものの、富豪でもない。
何とか2年前にチームを2部に昇格させたものの、本人の口八丁と人脈任せの集金術頼りでは資金がショートするのは時間の問題だった。
そして、とうとう“プロサッカー界追放”に
昨夏リーガの財政状態の悪化がフィナンシャルコントロールに引っ掛かり選手登録人数を減らされ(サガン鳥栖でプレーするイサック・クエンカはこの時に登録外となった選手だ)、間もなく給料の未払いが始まり、10月末に7億円近い負債が発覚。
オリベルの「スポンサーが見つかった。未払いは解消する」という嘘が数回繰り返された後、選手がクラブを訴えた――これが記事を執筆した昨年12月末時点のことだった。1月中旬にリーガはレウスの3年間のプロサッカー界追放を発表し、1月19日の第21節ヌマンシア戦を最後に試合はストップ。オリベルはスペインのスポーツ裁判所に減刑を求めて上告していたたが、先日棄却された。
レウス抜きの2部リーグがどうなったかというと、レウスは勝ち点「0」での最下位が確定。試合日程を消化するごとに対戦相手には1-0または0-1のスコアでの不戦勝で勝ち点3が加算される。このスコアはレウスの平均得失点から算出したものだ。クラブの方はというと選手全員が自由契約となり、資金源を完全に失って会社更生法の適用を申請。今はアマチュアのコンペティションだけを継続している状態だ。
だが、アマクラブとしての命も風前の灯だ。プロリーグ追放が確定したことで更生の見込みなしと判断され、更生法適用が見送られ、破産手続きに入ることが濃厚だからだ。総合スポーツクラブとしての100年以上の歴史は、1人の男の無謀な夢と、わずか3年間のプロサッカー生活ともに幕を閉じることになる。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。