トッティに続き、ローマ生え抜きの英雄が去る
「クソみたいなひどい寝覚めだ!」
「トッティの引退から2年しか経っていないのに、今度はデ・ロッシか!」
14日朝、ロマニスタたちはネット上でそんな声を挙げた。ASローマはダニエレ・デ・ロッシが今季限りで退団すると発表した。下部組織の生え抜きで18年に渡ってローマを支え、イタリア代表でも中心の選手だった。何より生粋のロマニスタで、ファンとの関係は多少複雑なものがあったとはいえ、彼自身はクラブへの愛着を持ち続けた。それゆえにファンのショックは大きい。数日前、夫人で女優のセイラ・フェルバーバウムが「ダニエレは人生において最も重要な決断をしなければならなくなるわ」と”予告”していたが、その通りになった。
同日にトリゴリアで記者会見が行われ、同席したグイド・フレンガCEOは次のように話した。「昨日ダニエレと会って、契約を更新しないというクラブの意向を伝えた。我々は長い時間、話をした。自分勝手なことを言えば、できたら彼に自分の横にいて欲しかったし、そうすればクラブもプロジェクトを容易に進められると思った。しかし、彼の希望は違った」。クラブとしてはトッティのようにフロント入りを提案したが、デ・ロッシに固辞されたということだ。
デ・ロッシがフロント入りを断った理由
その理由のひとつは、デ・ロッシ自身が現役続行を願っているということ。「体がガタガタになって続けられなきゃ、そりゃあ受け入れなきゃいけない。でも故障がちだったとはいえ、試合に出れば自分のパフォーマンスは決して悪くなかったように思う。オレが幹部なら契約を更新してるよね」と冗談を交えながら、プライドを覗かせていた。実際、ピッチ上ではその通りの説得力を見せており、不安定なチームの中にあって運動量や正確な組み立ては冴えていた。故障退場後にゲームコントロールを失い、敗れ去ったCLポルト戦の第2レグは象徴的である。
そしてフロント入りを固辞したもうひとつの理由は、現状のクラブで幹部職を務めることへの抵抗感だ。
「自分に先立って引退した人を見ていると、あまりにも権限を持たせてもらえないようにも感じた。トッティにもう少し権限が与えられたと思う」
OBをフロントに引き上げても発言権のない状況をそう指摘したのである。「ここまでろくにコミュニケーションもなかったし、これだと退団を意識せざる得ない」と、現場と経営陣とのコミュニケーションの不足があることを訴えていた。
ジェームス・パロッタ会長はアメリカにおり、その指南役とみられているフランコ・バルディーニも拠点はロンドンと、このクラブのフロントの指揮系統は複雑で、現場の声が届きにくいと指摘されている。「もう少しこういう面が改善されることを望むよ」。デ・ロッシはローマを愛する者の1人として、フロントに苦言を呈してクラブに別れを告げる。
Photos: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。