カシージャスの一件で思い出されたのは
ポルトの元スペイン代表GKイケル・カシージャスが心筋梗塞で病院に搬送されたニュースが5月はじめに世界中を駆け巡った。フットボリスタでも詳細を紹介したように、カシージャスは迅速な対応のおかげで一命を取り留め、快方に向かっている。
病状こそ違えど、この一件は、昨年3月に亡くなったイタリア人DFのダビデ・アストーリの死を改めて想起させた。アストーリの死の直後、ドイツ国内ではさまざまなメディアが心臓医を取材し、死因やスポーツ選手の心臓疾患の危険性を報じていた。
アストーリの一件では、2018年12月に2人の医師が過失の疑いで捜査を受けている。だが、この事件にかかわらず、トップアスリートは一般的に心臓疾患の大きなリスクを背負っているという。
昨年3月15日の『ヴェストドイチェ・ツァイトゥング』は、スポーツ選手の心臓疾患についてまとめた記事を出している。同紙によると、アストーリの死の数日前には、ドイツ国内でもアマチュアチームのU-17カテゴリーの選手が試合中に心臓が原因の突然死で亡くなっており、プロ選手から下部リーグやアマチュアレベルまで少なくない数の選手たちに不幸が起こっていることを伝えている。
同紙によれば、医学的には、一般的に健康的な人間の突然死につながる突発的な心臓疾患は、心筋の炎症が原因だと見られているという。とりわけ、インフルエンザのような極端なものでなくとも、ウイルス性の風邪から心筋の炎症に繋がることが多いとされているようだ。
また、1993年に亡くなった当時、KFCユルディンゲンでプレーし、ルーマニア代表経験もあるミヒャエル・クラインのように、ウイルス性疾患の肺炎にかかり、間接的に心臓や循環系不全を引き起こして突然死につながることもあるという。
風邪と侮るなかれ、心臓疾患につながる危険
選手の中には、そういった風邪の症状が表れると、プレッシャーからドクターにも内緒で抗炎症薬を摂取しながらプレーをする選手もいるという。だが、心臓に炎症がある状態での運動は、心室細動という不整脈の一種を引き起こすリスクを高めてしまう。
『フォーカス』のインタビューでは、「ウイルス性の風邪に疾患した場合、数時間後には心筋に炎症が起こります」とミュンヘンの心臓外科医アレクサンダー・レーバー氏が警笛を鳴らす。心臓外科医の立場からの意見は、「ウイルス性の風邪にかかった場合、絶対に激しい運動をしてはならない」というものだ。
これまでの悲劇から、AED設置の義務付けや、突然死の選手のデータバンクの作成、検査の厳格化などが進められている。だが、それでも完全に防げてはいない。選手たちが、心筋の炎症の兆候となる胸の痛みや、呼吸が苦しいなどの症状を軽く見てしまい、ドクターに申告しないままトレーニングや試合に参加することも原因のひとつだという。
アスリートたちが、勝利への責任やレギュラー争いのプレッシャーから無理をしてしまう気持ちは理解できる。だが、最後は自分の身体と対話し、休むという決断が正しい場合もある。ファンやサポーターは、何よりも大切な選手を失う悲劇を望んではいないのだから。
Photo: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。