ケガでなく、招集リストから外されたベイル
5月5日のビジャレアル戦、レアル・マドリーの招集リストにベイルの名前がなかった。
ケガで招集されないのはよくあること(13-14シーズンにレアル・マドリー加入後、19回負傷)だが、今回はケガではない。ジダンの判断として外したということ。来季用のキャスティング中のジダンは、ビニシウス、ブラヒム・ディアス、マリアーノらを見たかったということか(サンティアゴ・ベルナベウのお客さんによるブーイングを避けた、との説もある)。先月28日のラージョ・バジェカーノ戦後にはベイルのパフォーマンスについて問われて「レアル・マドリーに集中しているのかどうか。本人に聞いてくれ」と冷たく突き放してもいたから、一種の罰だったのかもしれない。
いずれにせよ、今回の招集外でジダンとベイルの間に“フィーリング”がないことは決定的になり、それは即、今夏の売却を意味する。だが、売却は「決して簡単なオペレーションではない」という見方でスペインメディアは一致している。
最大のネックは年俸の高さ。チーム最高給の税抜1500万ユーロ(約18億6000万円)ものスーパーサラリーを払えるのは、マンチェスター・ユナイテッドを筆頭とするプレミアのトップクラブや、パリ・サンジェルマン、バイエルンくらい。買い手として最有力視されていたマンチェスター・Uは来季のチャンピオンズリーグに出場できず、補強費・人件費とも削減される可能性が出てきた。
“売り時”逃した? レアル混乱の象徴に
さらに、獲得費用の1億ユーロ(約124億円)程度で売りたいという、レアル・マドリー側の皮算用も障害だ。クラブ史上最高額の移籍金の収支はグラウンド上のパフォーマンスだけで考えると赤字。よって何とか減価償却したいという気持ちはわかるが、実勢価格7000万ユーロ(移籍情報サイト『Transfermarkt』より)とは大きく開きがある。ジダンとの溝が明らかになった今、足下を見られて大幅な値引きを迫られるのは必至の状況だ。
そして最後は、やはりケガの多さ。先に紹介した19回のうち5回は今季になってのものなのだ。7月に30歳になる年齢もマイナスイメージだろう。
振り返ると、昨夏ジダンが退任したのは、ベイル放出というジダンの要請にフロレンティーノ・ペレス会長が首を縦に振らなかったのが原因だった。ベイルは昨季のCL優勝後、「もっとプレーしたい」とジダンの采配に不満を述べていた。先発落ちしたその決勝で2ゴールを挙げ、本人の自信も、当時の実勢価格も9000万ユーロまで膨らんでいた。思えば、あの時が“売り時”だったのだ。選手の売り時、買い時には常に明暗があるが、昨夏以降のレアル・マドリーの混乱を考えると、これほどネガティブに影響した例はないのではないか。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。