「問題は直ちに解決し、容体は安定」
ポルトガル時間の5月1日の午前中、ポルトでプレーするイケル・カシージャスが急性心筋梗塞を起こしたことは、日本でも報道されているから知っているだろう。その日の夜、ポルトの医師団が声明を出し、「すべてがうまくいった」「問題は直ちに解決し、容態は安定。持ち前のユーモアで家族に見守られて回復を開始した」と安心を伝え、本人も「すべてコントロール下にある。驚いたが強さは失われていない。多くのメッセージと愛情をありがとう」との言葉と病床の写真をTwitterに掲載した。
心筋梗塞は命に関わる病気で、スペインでは2007年8月にアントニオ・プエルタ(元セビージャ/試合中に気絶し心不全を発症)、2009年8月にダニエル・ハルケ(元エスパニョール/遠征先のホテルで心静止を起こす)の尊い命が失われている。
この2人の不幸なケースと比べると、カシージャスの幸運が見えてくる。
心筋梗塞とは心臓の冠状動脈が詰まり酸素が心筋に届かなくなる病気で、血管の詰まりを解決するまでの時間が決定的な意味を持つ。スペイン各紙で報道された専門家の意見では、発症から90分以内に血流の回復に成功すれば壊死などのダメージは防げる、という。
先のポルトの声明によるとカシージャスは「完璧に回復する」ということだから、胸の痛みを訴えてからカテーテル治療(管状のカテーテルを挿入し血管を広げる)までが、非常に短い時間で行われたことがわかる。練習中の発作でポルトの医師がその場にいて適切な診断と応急措置ができ、練習場から車で30分ほどのCUFポルト病院へ真っ直ぐに緊急搬送が行えたことが回復のカギだったのだ。練習後に帰宅してからでは、これほどの短時間で処置ができなかった可能性が高い。また、心筋梗塞の程度が、いきなり気を失って倒れたプエルタやハルケに比べてはるかに軽かったことも幸いした。
命が救われた今、果たして現役復帰が可能なのか、という憶測が飛んでいるが、これに対してはポルトの声明でも「薬を飲む必要があるし、強いストレスと肉体的な負荷の下で体がどう反応するのかを見ないといけない」と「未来について語るのは早急」と結論付けている。先の「完璧に回復する」というのは日常生活を送る上で、のことなのだ。
今月20日には38歳になる本人の気力の問題もあるだろう。レアル・マドリーを離れポルトで復活した選手だが、運良く救われた命だ。“グラウンドに戻って来てほしい”などという、無責任なことは言いたくない。
Photo: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。