後半から登場し、優勝ゴールを決めたメッシ
4月27日レバンテ戦に勝利(1-0)し、バルセロナがリーグ優勝を果たした。その勝ち方が、今季のメッシの変身を象徴していた。メッシは先発せず、0-0で前半を終えると後半から登場。彼が決勝点を挙げて優勝を決めたのだ。
もうメッシも31歳、今年6月には32歳になる。それで第35節終了時で34ゴール、13アシストというのは「凄い」のひと言だが、その裏でバルベルデ監督の素晴らしいサポートがあった。
今季メッシは32試合に出場しているが、先発フル出場は26試合しかなく、5試合が途中出場で、5試合で途中交代している。その結果、出場時間2530分はチームで6番目でしかない。
かつてメッシは先発フル出場が当たり前で、本人もローテーションを良しとしなかった。有名なエピソードがある。2015年1月のレアル・ソシエダ戦、当時監督のルイス・エンリケがメッシを先発させず敗れると、采配を不服としたメッシが公開練習の参加を拒否する騒動に発展。ルイス・エンリケとメッシの話し合いの後、メッシは2度とベンチに座らされることはなかった。監督が選手にリーダーシップを譲ることは異例だが、あの騒動はメッシがバルセロナの王であり、その力は監督よりも上であることを証明する形になった。
その14-15シーズン、27歳のメッシはソシエダ戦以外の37試合で先発フル出場し、出場時間3375分はGKよりも多いチームナンバー1を記録している。クリスティアーノ・ロナウドとの激しい得点王争いがメッシをフル出場にこだわらせたのだった。
重要な場面で、重点的に
メッシを休ませ、重要な場面で重点的に使うというバルベルデの方針は、グラウンドの上でもそうだった。
かつてのメッシにはボールを触りたがり中盤まで下がってくる癖があった。「前に残ってくれた方がチームにはプラス」とグアルディオラはそれを矯正しようとしたが、耳を貸さなかった。だが、今季は右サイドのFWのエリアともMFのエリアとも言えない、中途半端なゆえにマークを受けにくい位置に残って、カウンター時に最初にパスを受ける役に徹するようになった。そしてそこからドリブルで前進し、アシスト、フィニッシュに絡む――。バルセロナがカウンターに比重を置く戦い方になったのは、メッシの年齢とも関係しているのだ。また、以前のようにプレスを率先してやる姿を見ることも少なくなった。
今もメッシはバルセロナの王、リーガの王であり続けている。だが、下々のアドバイスを受け入れ力をセーブすることを覚えたことで、その権勢は衰えを知らないものになった。バルセロナの優勝はその証明である。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。