ベルギーに生まれながらブラジルの誇りを胸に戦うアンドレアス・ペレイラ
二重国籍を持ち、他国の代表監督やサッカー連盟から何度も勧誘されながら、ブラジル代表でプレーする夢を追い続け、ついに成功への第一歩を踏み出した選手がいる。
「ブラジル人であることは、計り知れないほどの誇りなんだ。そして、僕は必ずブラジル代表に戻ってくるんだと信じていた」
そう語るのは、ベルギー生まれのブラジル人、攻撃的MFのアンドレアス・ペレイラ(フルアム)だ。
「タレントの宝庫」と呼ばれ、世界中で活躍する選手たちを輩出しているブラジル。クラブだけでなく代表チームにおいても、FIFA(国際サッカー連盟)の定めた資格を満たし、縁ある国のユニフォームを身につけることを選んだ選手たちもいる。
しかし、アンドレアスは3月下旬の国際Aマッチデーで、親善試合イングランド戦、スペイン戦のために招集され、チームに合流した後、こう語った。「ブラジル代表でプレーすることは僕の夢だった。何度もベルギーからの誘いを断ったんだ。子どもの頃からの夢を実現し、ここにいられることは本当に幸せだ」
ベルギーからブラジルに“鞍替え”
サッカー選手だった父マルコス・アントニオ・ペレイラがベルギー1部のKVメヘレンでプレーしていた1996年にベルギーで生まれ、同国のロンメル・ユナイテッドでサッカーを始めた。その後、PSVから2011年にマンチェスター・ユナイテッドの下部組織に移籍し、そこで2014年にプロになった。
世界屈指のビッグクラブでスタートしたプロとしての経歴では、その2年後から2021年半ばまで、グラナダ、バレンシア、ラツィオとレンタル移籍で経験を増し、実力を磨いた。
最後のレンタル先となったのがフラメンゴ。1年間とは言え、ブラジル人の彼が、その人生と経歴において、初めてブラジルで過ごしたのだ。そして、2022年7月にマンチェスターUからフルアムに完全移籍し、今に至る。
その生い立ちとキャリアにより、2010年から2013年にかけてはベルギー代表としてU-15、16、17でプレーした。しかし、ブラジル代表のユニフォームを着ている幼児の頃の写真が残っている彼は、成長するにつれてブラジル代表としてプレーしたいという気持ちを強めていった。
かつての恩師が代表に抜擢
ベルギーからの関心には「良い仕事ができている証拠だから、とても感謝している。だけど、僕はブラジル人だ。一番大事なのは、みんなにそれをはっきりと伝えることだった」と言う。
その気持ちを表明し、U-20からはブラジル代表に転向、2015年U-20ワールドカップでも2ゴールを決めるなどチームの準優勝に貢献した。
しかし、その後のU-23では、準備段階こそ招集されていたものの、マンチェスターUで出場機会の少なかった当時、2016年リオ五輪では招集を逃してしまった。
再びブラジル代表でプレーするんだと心に誓い、そのためにはもっと出場機会を得たいと考えて、彼のレンタル移籍の経歴が始まった。しかし、2018年には当時のチッチ監督にフル代表初招集を受けたものの、目立った結果を残せずに終わった。
今年で28歳になり、成熟した彼が、実に約5年半ぶりにブラジル代表に復帰を果たした。彼自身のフルアムでの好調の賜物であり、ドリバウ・ジュニオールの監督就任も大きかった。
「フラメンゴでドリバウの下でプレーしたから、僕は彼の仕事をわかっているんだ。短期間だったけど、彼のイデオロギーにすごく共感したし、彼の試合のスタイルを良く理解できた」
そして、2021年8月から1年間、フラメンゴで過ごしたことの重要性も語る。
「僕がブラジルで、そしてフラメンゴで学んだのは、“責任を持つ”ということだ。自分の責任を背負い、要求されながら、天国も地獄も生き抜くこと。確かに大変だったけど、精神的に強くなった。自分自身を強化し、ヨーロッパでのプレーに戻ってからも、代表招集を目指す上で、それが自分を手助けしてくれた」
「一番大事なのはそこだ。自分で自分の責任を追求すること。僕らはワールドカップ最多の優勝国を代表しているんだから、その責任はとてつもなく重い。でも僕はここですべきことをわかっている。チームみんなで力を合わせて献身するつもりだ」
2試合とも好守で存在感を発揮
こうして再びブラジル代表のユニフォームを身につけたアンドレアスは、2試合とも途中出場だったが、ピッチに入ると、攻撃の組み立てと安定した守備のための重要な役割を果たした。
1試合目のイングランド戦では、大きな存在感を示したルーカス・パケタ(ウェストハム)と交代で入りながら、チームのリズムを維持し、幾つもの得点チャンスを生み出した。そのうちの1つはビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)への絶妙なパスで、エンドリッキ(パルメイラス)のゴールに繋がった。
ジョアン・ゴメス(ウルバーハンプトン)との交代で入ったスペイン戦では、中盤にバランスをもたらした上に、足元にボールを持つや否やパケタに繋げるなど、ブラジルのスピーディーな攻撃に息を吹き込んだ。
また、右SBのイアン・コウト(ジローナ)との連携で攻撃を仕掛け、そのうちの1度はFWガレーノ(ポルト)に対する相手のファウルを引き出すことになり、PKを得ることに成功した。
「とてつもなく大きな誇り」
アンドレアスに「自分はブラジル人だ」と感じるのはどんな時かを聞いてみた。フラメンゴにいた時、そして今ブラジル代表で、改めてそう感じる瞬間はあるのか。
「フラメンゴでプレーするためにブラジルに行って、初めてマラカナンでの試合に出た時に、ブラジル人サポーターの愛情を感じたんだ。肌で感じることができた。それに、家族や親戚が間近で試合を見るのも初めてで、すごく幸せに思った。ブラジルサポーターとの再会はとても重要なものだったし、こうしてブラジル代表に戻って来られたことは、僕にとっても、僕の家族にとっても、とてつもなく大きな誇りだよ」
ベルギーで生まれ、人生とサッカーの経歴のほとんどをヨーロッパで築きながら、ブラジル人としての誇りを語る。そして、ブラジル代表がドリバウ新監督の下で再スタートを切る重要なタイミングで期待に応えた。
ブラジルメディアやサポーターも彼について「今年6月20日から開催されるコパ・アメリカのチャンスに大きく手をかけた」と評価している。
Photos: Rafael Ribeiro/CBF, CBFTV
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。