「フットボールは自由な意見のスポーツ」という格言があり、当然だが意見が対立することもある。
今に始まったことではないが、英国フットボール界では解説者と現場の舌戦が話題になっている。先日、元マンチェスター・ユナイテッドのロイ・キーン氏がノルウェー代表FWアーリング・ホーランドについて放った発言が大きな話題となった。
『Sky Sports』で解説を務めるキーン氏は、3月31日に行われたマンチェスター・シティvsアーセナル(0-0)の試合後に話題がホーランドにおよぶと、周りの演者がチャンスを決めきれなかったシーンについて「誰にでも起こりうる」と擁護するなか、ホーランドの全般的なプレーについて言及。「ゴール前では世界最高だが、彼ほどの選手が他のプレー全般は酷い。今日だけじゃない。そこは改善しないといけない。まるで4部リーグの選手のようだ」と言い放ったのだ。
「元選手がこんな発言をするのは驚きだ」
キーン氏とホーランド家には因縁があり、現役時代にキーン氏がホーランドの父親と揉めたことは有名な話だ。だから息子を揶揄したわけではないと思うが「4部リーグの選手」という発言は様々なメディアで取り上げられて波紋を呼んだ。
そして記者会見にてキーン氏の発言について聞かれたシティのペップ・グアルディオラ監督は「全く同意できない。それは、まるで彼(キーン氏)を2部や3部リーグの監督と呼ぶようなものだ。そうは思わないがね。アーリングは世界最高のストライカーだ」と言い返した。さらにペップは「これが元選手の発言というのが驚きだ。ジャーナリストの発言なら理解できる。彼らはピッチに立ったことがないからね。でも元選手がこんな発言をするのは驚きだ」と付け加えた。
解説者の発言が現場の人間を怒らせるのは今に始まったことではない。有名なところでは1995年、ライアン・ギグスやデイビッド・ベッカムなど若手を抜擢したサー・アレックス・ファーガソン監督の若きユナイテッドについて、リバプールOBのアラン・ハンセン氏が「子どもたちじゃ優勝できない」と指摘して話題を呼んだ。結局、ファーガソン監督は若いメンバーで見事に優勝して黄金期を築くのだが、時折あの発言を選手たちにぶつけて発破をかけたと言われている。
解説者が苦言、監督が反論
それにしても、最近は「解説者vs監督」の論争が多発している。2月には元ユナイテッドのギャリー・ネビル氏がUEFAチャンピオンズリーグ16強のコペンハーゲン戦でのシティについて「見ていられなかった。正直、つまらないと思った。彼らの試合を見るのがつらかった」とポッドキャストの番組で発言。これに対してペップは「誉め言葉をありがとう」と皮肉を込めた後で「フットボールは難しいんだ。何年間も勝ち続けるのはね。この言葉を忘れないで欲しい。簡単そうに見えるが、そうじゃないんだ」と続けた。
ネビル氏はチェルシーの監督ともやり合った。2月のカラバオカップ決勝で解説を務めたネビル氏は、若手主体の手負いのリバプールに敗れたチェルシーについて「青い10億ポンドの“ボトルジョブズ”」と言い放ったのだ。“ボトルジョブ”とは、肝心な時に気概を見せずに失敗することを意味する。これに対してチェルシーのマウリシオ・ポチェッティーノ監督は「親愛なるギャリーよ、ああいう言葉を勇敢なチームに使うのはフェアじゃないよ」と忠告した。
同じく『Sky Sports』で解説を務める元リバプールのジェイミー・カラガー氏も監督の怒りを買った。カラガー氏はユナイテッドがフラムに1-2で敗れた2月の試合を分析しながら「こんな守り方は見たことがない。低い位置でブロックを敷きながらハイプレスを敢行するなんてね。それは不可能だ」とユナイテッドの戦術を批判したのだ。
するとユナイテッドのエリック・テン・ハフ監督も黙ってはいなかった。「とても客観的で良いアドバイスを言える解説者もいれば、とても主観的な解説者もいる。ジェイミー・カラガーがその1人だ。彼は最初から否定的だったし、こうして自分の意見を主張する」と反撃したのだ。
今はどんな発言でもSNSで切り抜かれて拡散されるため、以前よりも言葉の重みが増しているのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、誰もが自由に意見できるのがフットボールの魅力なので「解説者vs監督」の舌戦も醍醐味の1つとして楽しむべきなのだろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。