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大一番で飛び出した戦略的ゴール。考案したのは無名だったスペイン人コーチ

2024.03.15

 現代サッカーは総合力の勝負。今月10日に行われたプレミアリーグ28節のリバプールvsマンチェスター・シティは、まさにそんな戦いだった。

 リバプールの日本代表MF遠藤航を含め、ピッチ上の全選手が世界最高峰のレベルでぶつかり合って1-1の名勝負を繰り広げたのだが、シティに貴重な勝ち点1をもたらしたのは、ピッチに立たない“裏方”だった。

無名コーチが編み出した必殺技

 23分、CKを得たシティはMFケビン・デ・ブライネがニアポストにクロスを入れ、それをDFジョン・ストーンズが合わせて均衡を破った。ゴールを生み出したのは完璧なクロスを入れたデ・ブライネであり、ニアサイドをカバーしていたMFアレクシス・マカリスターを力ずくで押しのけてスペースを作ったDFナタン・アケであり、チャンスを仕留めたストーンズなのだが、ゴールを確認したペップ・グアルディオラ監督が拳を握ってから立ち上がって指をさしたのは、ベンチの方向だった。そこに座っていた人物こそ、優勝争いの大一番で必殺技を編み出したコーチのカルロス・ビセンスだ。

 スペイン人指導者のビセンスは、シティに来るまで全くの無名だった。自ら履歴書を送って2017年にシティの下部組織でコーチ職に就くと、そこからU-18チームのアシスタント、そして同チームの監督を経て、3年前にトップチームのコーチまで上り詰めた。

 2022年にはオランダのヘラクレス・アルメロに誘われて監督就任に合意するも、同クラブが降格の憂き目に遭ったこともありシティに残留。ペップの片腕の一人としてチームを指導しており、あの意表を突くセットプレーを選手たちに伝授したのだ。

 「カルロス(ビセンス)が教えてくれた」と試合後にストーンズは振り返った。「(リバプールの守り方に)気づいて、昨日練習したのさ。それが実ってうれしいね。僕はこれが今季初ゴールだし、それをビッグゲームで決めることができて良かったよ」

総合力で奪ったゴール

 セットプレーの準備を任されるビセンスは、分析官のジャック・ウィルソンとともに相手チームの守備時の配置などを分析して策を練る。CKの守備にはニアサイドにボールを跳ね返す選手、いわゆる“ストーン”を置くのが常套手段。リバプールもマカリスターを置いていたが、それ以外の選手はゴールラインから少し離れた位置を取る。GKが動くスペースを確保したいのかもしれない。だが、そのせいで“ストーン”をどかせばスペースが生まれてしまう。そこに気づいたシティは、ストーンをどかしてストーンズを飛び込ませたのだ。

 リバプールの守護神であるアリソンがケガで不在だった影響もあったのかもしれないが、いずれにせよシティは見事なサインプレーで先手を取った。だが、分かっていても簡単にできるプレーではない。

 ニアポストにピンポイントで速いクロスを入れなくてはいけないのだが、世界最高のキック技術を持つデ・ブライネならそれも可能だ。『Sky Sports』に出演した元マンチェスター・ユナイテッドのロイ・キーン氏は「あれができる選手は世界広しといえども多くはない。完璧なクロスが必要なので、単純にクロスが素晴らしかった」と感嘆した。

 見事な策と、それを実現する高い技術。ストーンズの先制点は、まさにシティが総合力で奪ったゴールだった。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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