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五輪3連覇を目指したブラジル、南米予選敗退で組織の大改革へ

2024.02.17

 1月20日から2月11日にかけて行われたパリ五輪男子サッカー競技の南米予選で、ブラジルがまさかの予選敗退に終わった。出だしこそ3連勝、5得点1失点と好調で、10チームを2組に分けた1回戦総当たりの1次リーグを、1節残して突破した。しかし、その2組の上位2位チームによる1回戦総当たりの最終リーグは、各国の実力が均衡してきたと言われる南米サッカーを表すかのように、最後まで全4チームに上位2チームに与えられる五輪出場枠獲得の可能性が残る接戦となった。

 最終節でアルゼンチンと対戦したブラジルは、そこで78分にゴール決められ、0-1の敗戦で予選敗退が決まった。南米代表は1位パラグアイ、2位アルゼンチンとなった。

予選開幕当初は好調だったが、長続きしなかった

「強いチームが作れる」と宣言したが…

 ブラジルが力を入れるのはFIFAワールドカップだけで、五輪には興味がないかのように言われていたのは過去の話だ。A代表と兼任の監督が本番直前にしか準備ができない中で、急造チームの五輪代表を率いていた時代でも、近年の2008年北京での銅メダル(ドゥンガ監督)、2012年ロンドンでの銀メダル(マノ・メネーゼス監督)など、2位、3位には繰り返し達していた。しかし、W杯5度の優勝をはじめ、U-17、U-20のいずれのW杯でもタイトルを達成していたブラジルにとって、唯一足りなかった五輪金メダルは、サッカー大国の悲願だった。

 そして、専属の監督とスタッフが各種国際大会や親善試合でチームを準備して五輪に臨むようになってからは、2016リオ五輪、2020東京五輪で連覇を果たしている。続くパリでは3連覇が期待されていたのだ。

 当然のごとく、「屈辱」「失敗」と言った言葉とともに、感情的に批判する声も、戦犯探しをする向きもある。同時に、冷静な敗因分析を試みるコメンテーターやジャーナリストもいる。

 FIFA国際マッチデーの開催ではないこの大会では、クラブが選手を代表に送り出す義務がないという問題がある。その中で、2022 年3月にU-20代表監督に就任して以来、この世代を率いてきたラモン・メネーゼスも、年代別代表総合コーディネーターを務めるブランコ(元ブラジル代表、94年W杯優勝メンバー)も、クラブを訪問するなど相当の根回しをしてきた。その上で、不可能と判断された選手以外の23人の招集メンバーを発表したものの、そのうち7人はクラブが辞退を決めた。この年代でも多くの選手がヨーロッパでプレー、もしくは国内でもクラブの主力である選手が多いためだ。

 ロドリゴ(レアル・マドリー)、ガブリエル・マルティネッリ(アーセナル)、ビットー・ホッキ(バルセロナ)など、この世代でも常に呼べない選手は多かったとは言え、同様の条件の下で招集した昨年のU-20南米選手権では12年ぶりの優勝、U-23のパンアメリカーノ(北中南米のオリンピック)では36年ぶりの優勝を果たしている。

 ラモンはそうした大会と同様、今回も「彼らは黄金世代。招集できなかった選手がいるとしても、私は今、ここに集まった選手たちを信頼している。このメンバーで強いチームを作れる」と宣言していた。

 プロとしてすでに活躍している以上、クラブとの関係や、選手の休暇の確保についての問題もあるが、大会ごとに顔ぶれが変わらざるを得ない状況の中では、もう少し長い直前合宿の期間を取れなかったのか、ブラジルサッカー連盟の体制を疑問視するメディアからの声もあった。

ケガ人が相次ぎ不安定な戦いに

 ラモンが試合後の会見でも語ったとおり、大会中の負傷も響いた。スタメンだったCB1人、SB1人、ボランチ1人と、守備の要が相次いで大会を離脱することになり、立て直しを迫られた。最終リーグでは1試合1失点ずつと、スコアとしては大きく崩れたわけではないが、安定と呼べる状態ではなく、拮抗した戦いではその1失点が大きく響いた。

 攻撃では、今年半ばにRマドリーへ行くことが決まっているエンドリッキ(パルメイラス)や、昨年のコパ・リベルタドーレス決勝で決勝ゴールを決めたジョン・ケネジ(フルミネンセ)を始め、FW勢が大会を通じ、ゴールにアシストにと才能を発揮した。しかし守備の不安定さが影響し、中盤がスムーズに機能しない場面もある中で、序盤の絶好調ぶりを維持するのは難しかった。

 大会中、エンドリッキがメディアに苦言を呈したことがある。DF2人が負傷離脱した直後の1次リーグ第4節ベネズエラ戦の後だ。この試合では、すでに最終リーグ進出が決まっていたことから、累積警告の危険のある選手を温存したり、まだ機会の少なかった選手にプレーのチャンスを与えたりと、選手を大きく入れ替えて臨んだ。しかし、これまで格下と見られていた相手に敗れてしまった。エンドリッキは言った。

 「あなたたち(メディア)はブラジルが本命だと言っていたけど、すべてのチームに五輪出場枠を獲得し、優勝するための同等の力がある。この敗戦は、僕らにとっても、そしてあなたたちにとっても一つの教訓になった。どのチームも決して軽視してはいけない、というね」

 メディアの反発を招きそうな言葉だが、攻撃の主力として戦い続ける中で、ゴールやアシストが決まった時は称賛される個人技が、チームが苦戦や敗戦をした時はエゴだと批判される。そうした苛立ちもあったように見える。

大会中、メディアに苦言を呈したエンドリッキ(右)

 一方、ジョン・ケネジは悔やんでいた。

 「悲しい。でも、僕に言わせれば、それ以上に屈辱だ。ブラジル代表ほどのチームが五輪に出られないなんてことがあってはいけない。勝ちたいという気持ち、もっとゴールを決めるんだ、この重要な試合を決めるんだという気持ちが、僕らには少し足りなかったのかもしれない」

連盟は組織の大改革に着手

 2023年にバスコダガマからチェルシーに移籍したMFアンドレイ・サントスは、チェルシーの方針により、積極的に年代別代表に送り出されてきた。昨年のU-20南米選手権とU-20W杯を戦い、親善試合にも出場し、多くの試合でチームキャプテンを務めるなど、常にチームの主力の1人だった。五輪に賭ける思いと責任感も一際大きかった。その彼は、アルゼンチン戦に敗れた後、こう語った。

 「今は気持ちを立て直し、何を間違えたのかを振り返り、前に歩み続けることだ。だけど、とても悲しいよ。僕らのチームはすごく強かったのに。五輪出場枠を獲得するためにすべての準備をし、頑張ってきたのに。そして、金メダルを獲得したいと、そこにすべてを注いでいたのに」

キャプテンを務めたアンドレイ・サントスは敗北の悲しみを吐露

 ラモンは接戦となった最後のアルゼンチン戦について「我々は試合をコントロールしていたし、いくつかの最高のチャンスを作れた。でも、選手たちにも言っていたとおり、1つの細かいところで、1つのプレーで試合が決まる。それで、相手がゴールを決めるためのクロスを出すチャンスを与えてしまった」と振り返った。そして、大会についてはこう締めくくった。

 「目標を達成できず、この大会をとても悲しい気持ちで去ることになった。我々はいつでも自分たちの責任を分かっていた。それに、全チームが均衡する中でパリ五輪の2つの出場枠を目指すのだから、とても厳しい大会になることも、我々が戦った過去の他の大会の経験で分かっていた。これまでは、最後は幸せに終わったが、今回はそうすることができなかった。もちろん苦しくてつらいことだが、選手たちは顔を上げなくてはならない。彼らは若く、これからもブラジルに多くの喜びをもたらすことができる世代なのだから」

 国内主要メディアの報道では、ブラジルサッカー連盟は大規模な組織改革の準備を進めていて、ここ1週間の間に、何らかの発表が行われるはずとのことだ。A代表にドリバウ・ジュニオール新監督が就任し、組織作りをしているのと合わせ、男子年代別代表人事にも着手する。ラモン監督の解任、U-17のフィリッピ・レアウ監督の辞任、またU-15代表ドゥドゥ監督の去就まで検討されている。さらに、これまでU-17とU-20のワールドカップ優勝、五輪金メダルを始め14のタイトルに導いたブランコも解任される可能性が高い。一つのサイクルが終わりと始まりを告げる。

コーディネーターのブランコ(左端)も解任される見込みだ


Photos: Joilson Marconne/CBF

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Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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