あまりにも静かだった今冬の移籍市場で、少し気になる選手がいる。
プレミアリーグの1月の移籍市場は昨冬の「8分の1」の移籍金しか飛び交わず、目立った動きが見られなかった。そんな中、国民の期待を一身に背負ってプレミアリーグに挑戦する選手がいる。ブレントフォードのBチームに加入したムハマダリ・ウリンボエフ(18歳)だ。
1992年に発足したイングランドのプレミアリーグでは、これまで115カ国のサッカー協会の選手がピッチに立ってきた。日本人では、先日ルートンに加入したDF橋岡大樹が13人目のプレミアリーガーとなる。一方、ブレントフォードにやってきたウリンボエフには、ウズベキスタン史上初のプレミアリーガー誕生という期待が寄せられているのだ。
母国では知られた存在。初のプレミアデビュー目指す
過去にはウズベキスタン生まれのプレミアリーガーもいた。ウェストブロミッチやストークなどで活躍したFWピーター・オデムウィンギーは、ウズベキスタンで生まれるも、幼少期に父の母国ナイジェリアに移り住み、代表チームもナイジェリアを選択。プレミアリーグで129試合36ゴールという立派な数字を残したが、彼をウズベキスタン人選手と呼ぶことはできない。そのためウリンボエフがBチームでアピールに成功し、プレミアリーグの試合で抜擢されるようなことがあれば、プレミア史上116カ国目の選手として歴史にその名を刻むのだ。
「アリ」の愛称で知られるウリンボエフは、ウズベキスタンでは知られた存在だ。国内の強豪パフタコール・タシュケントの下部組織で育った攻撃的MFは、2021年に「16歳183日」にしてトップチームでリーグ戦デビュー。今季はほとんど出番がなかったが、AFCチャンピオンズリーグの試合で起用されていた。近年ウズベキスタンは年代別代表チームがワールドカップで結果を残しており、昨年はU-20代表がベスト16、U-17代表に至ってはベスト8に入る快進撃を見せた。ウリンボエフも注目の若手と言われており、U-18代表チームで腕章を巻いている。
そんなウリンボエフは、日本にも所縁がある。彼の兄であるFWザビヒッロ・ウリンボエフ(28歳)は、1試合も出場しなかったが2019年に徳島ヴォルティスに所属した経験を持つのだ。そして今、弟は世界最高峰のリーグに挑戦しようとしている。
まずは6カ月のローン契約でパフタコール・タシュケントからブレントフォードのBチームに加入したウリンボエフ。完全移籍のオプション付きのため、今シーズン中にBチームでアピールに成功すれば完全移籍も夢ではない。「プレミアリーグはすべての若者の夢なんだ。その舞台に一歩近づけてうれしい。ここからハードワークして、ウズベキスタン人選手の力を世界中に示したい」と18歳の若武者は意気込んでいる。
果たしてウズベキスタン人史上初のプレミアリーガーは誕生するのか。ムハマダリ・ウリンボエフに注目したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。