アーセナル生え抜きの背番号10が復活を予感させる。
MFエミール・スミス・ロウ(23歳)はアーセナルの「未来」だった。10歳でノースロンドンのクラブに入団したスミス・ロウは、順調にステップアップを遂げて2018年、18歳にしてトップチームデビューを飾ると、確かな技術と創造性を発揮し始めていく。その後、ローン移籍で経験を積んで戻ってくると、2020-21シーズンの後半には定位置を確保。そして2021年7月、新たに5年契約を結び直し、ジャック・ウィルシャーやメスト・エジルが背負ってきた「No.10」を授けられた。
背番号10を託されるも苦難続き
「エミールはクラブの未来を担う選手なんだ。だから背番号10を託した。彼には美しい選手になるポテンシャルがある」と、スポーツダイレクターのエドゥも当時20歳の攻撃的MFに期待を寄せた。するとスミス・ロウは、2021-22シーズンにプレミアリーグで33試合に出場して10ゴールを叩き出し、イングランド代表にも選出される大ブレークを果たすことに。生え抜きのFWブカヨ・サカとともに、アーセナルを栄光へ導くものと思われた。
しかし、サカが代表チームでも確固たる地位を築くなかで、スミス・ロウは苦しんだ。昨シーズンは鼠径部のケガでシーズン前半戦を棒に振ると、後半戦も出場機会が限られた。昨夏はU-21欧州選手権でイングランドの優勝に貢献して新シーズンを迎えたが、MFカイ・ハフェルツの加入もあって出番はあまり回ってこなかった。それでも昨年10月のシェフィールド・ユナイテッド戦でようやく先発出場。プレミアリーグでのスタメン出場は実に524日ぶりのことだった。その試合で1アシストをマークするのだが、今度は膝を負傷して1カ月以上も戦列を離れてしまった。
2試合連続で好プレーを披露
そんな苦しい時間を過ごしてきたスミス・ロウだが、ようやく復活の兆しが見えている。1月20日のクリスタルパレス戦で途中起用されると、生え抜きのタレントを信じるサポーターから大声援で迎えられた。そして翌節のノッティンガム・フォレスト戦ではハフェルツの代わりにインサイドハーフとしてスタメン起用され、71分まで精力的に動いて2-0の勝利に貢献した。完全に引いて守るフォレストに対して攻めあぐねながらも、ボールを受けた際には前を向いてパス&ゴーで打開を図った。
まだ少し遠慮しているように見えたが、それは仕方ないこと。2023年は1年間で1度しかリーグ戦での先発起用がなかったのだから、完全復活には時間を要するだろう。それでもクラブの「未来」に期待していいはずだ。「練習でも非常にキレのある姿を見せていた」と、ミケル・アルテタ監督はクラブ公式HPで語っている。フォレスト戦でのプレーについても「自由に動いて流動的にプレーに絡んでいた。チームメイトともうまく連動していたので、非常にうれしい」とうなずく。
遊び心のあるプレーや積極的な仕掛けはこれから増えていくのだろう。颯爽とゴール前に走り込んできてワンタッチでネットを揺らす姿も帰ってくるはずだ。「見ていて美しい選手」と指揮官が称える23歳は、シーズン後半戦が勝負となる。もし彼が3年前の輝きを取り戻すなら、その時はアーセナルも20年ぶりのリーグ制覇に一歩近づいていることだろう。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。