ブラジル代表、ついに2026年W杯に向けた正式な新監督が決定
1月11日、CBF(ブラジルサッカー連盟)本部で、ついに正式なブラジル代表新監督が発表された。2026年のFIFAワールドカップ終了まで指揮を執るのは、現在61歳のドリバウ・ジュニオール。選手としてもパルメイラスやグレミオといったビッグクラブでプレーしていたが、今回の就任に導いたのは、20年に渡る監督人生において、南米最高峰のコパ・リベルタドーレスを始めとする14のタイトル、2つの準優勝などの実績を持つ勝者の経歴だ。
様々なゴタゴタを一気に解消
就任会見は、まさに新監督誕生のシーンから始まった。ドリバウとCBFのエジナウド・ホドリゲス会長が、報道陣や関係者が見守る会見の壇上で、契約書に署名したのだ。
それは、2022年W杯終了後から1年、紆余曲折のあった監督問題と、先月から状況が二転三転したCBF会長問題のイメージを払拭し、すべてをガラス張りにして、自信と信頼のもとに進めるのだという、CBFの決意表明とも言えるパフォーマンスだった。
というのも、まずは監督問題。W杯カタール大会を最後に退任したチッチは、ブラジル代表で6年半指揮を取り、81試合60勝14分7敗という戦績を残した。これほど高い勝率で、かつW杯南米予選では負けたことがなかったにも関わらずW杯で優勝できなかったことにより、国内の一部ではヨーロッパの監督を求める声が上がっていた。その中で、会長はレアル・マドリーのカルロ・アンチェロッティと接触し、クラブとの契約が終わる2024年7月からの就任に、非公式ながら確信を持った。
アンチェロッティを待つために、当時U-20代表監督だったラモン・メネーゼス(現在U-23代表監督)を代行監督として起用し3つの親善試合を戦った後、1年間の契約でフェルナンド・ジニスを招聘した。ジニスはフルミネンセと兼任の形で引き受け、クラブではリベルタドーレス杯優勝を決めたものの、代表では南米予選でまさかの6試合2勝1分3敗という、代表史上かつてない結果と共に2023年を終えていた。さらに、アンチェロッティは最終的に、クラブと2026年6月までの契約延長を発表した。
並行して、先月には新たな問題が起こった。エジナウド現CBF会長の前任者の時代に改定された会長選挙のルールに関し、公共省と高等裁判所の間に見解の相違があり、そのルールに則った選挙で選ばれたエジナウドの会長継続が違法とされ、会長職から外されたのだ。
ただ、FIFA(国際サッカー連盟)とCONMEBOL(南米サッカー連盟)はCBFの会長人事にスポーツ領域外の組織が介入することを良しとせず、CBFの国際大会参加を禁じる措置を講じるとしたため、国としての損害が大き過ぎると判断されてエジナウドが復帰し、予定通りの任期を全うすることになった。
エジナウドは歴代のCBF会長のように、賄賂やマネーロンダリングといった私利私欲による金銭問題を起こしてはいない。前任者のようにモラハラやセクハラによって解任されたのでもない。それでも会長復帰に当たっては「代表監督人事でもたつき、次のW杯に向けた最初の1年を無駄にした」というメディアの批判が高まっていた。
そうした中で、国民が期待する新監督と共にブラジル代表の再スタートを切るというのは、そうした批判と共に、監督問題と会長問題の両方に速やかに終止符を打つ最善策だったのだ。
「いつかここにいられることを願っていた」
そうやって誕生したドリバウ・ジュニール代表監督は、2022年W杯終了以降、メディアが常に候補の一人として名前を挙げていた人物だ。
その理由は、前述したタイトル数はもちろん、どのクラブでもコンスタントに優勝している上に、不振に喘ぐビッグクラブを急ピッチで立て直すことに長けているというのもある。それは、彼の監督としての考え方が大きな理由の一つだ。今回の会見でも、ブラジル代表で目指すサッカースタイルを聞かれた際、彼自身が言っていた。
「どのチームを引き受ける時も、私は自分の方がチームに適応してきた。あらかじめ確立したシステムを持ち込むのではなく、手元にあるものを確認した上で、サッカーのスタイルやシステムを構築する方が良い」
そうやって近年も、2022年のシーズン半ばにフラメンゴに就任するや、一気にその年のリベルタドーレス杯とコパ・ド・ブラジルの二冠に導いた。昨年はサンパウロのシーズン途中に就任し、コパ・ド・ブラジル優勝を達成した。
今年は引き続きサンパウロの指揮を執ることになっていたが、サンパウロはブラジル代表監督がドリバウの夢であることを理解し、CBFが違約金を払うことで、契約解消を了承した。
夢の実現に際し、会見で今の気持ちを聞いた。
「一つ言えるのは、すごく感動しているということだ。なぜなら私の人生において、計画したことはなかったからね。でもいつかここにいられることを願っていた。いつか監督として、ブラジル国民を代表することができればと想像していた。だから私にとってこの数日は大事なものになっている。でも現実はまた別だよ。月曜日からは、会長も私に要求し始めるはずだ。確かなのは、この会見が終わって落ち着いたら、ブラジル代表の日々に集中し始めるということだよ」
最初にサポーターとメディアを“招集”
会見での質問は多岐に渡ったものの、ドリバウが最も情熱的に話していたのが、サポーターからの信頼の回復についてだ。ブラジル代表はその歴史上、南米予選で連敗したことがなかった。それが、昨年は3連敗し、南米10カ国2回戦総当たりの大会方式で、第6節を終えた今、6位という状況に立っている。
「ブラジル代表はこの地球上最大の勝者であり、世界中に多くのインスピレーションを与えてきた。だから再び勝つことは義務であり、今のような状況を過ごしていてはいけないんだ。ただこれが教訓となるはずだ。急ピッチで吸収し、新たな道を見出すためのね」
「私はここで最初の招集をしようと思う。それはまさにサポーターの招集だ。サポーターに信頼されるブラジル代表をもたらすために、我われはベストを尽くす。だから心の底からサポーターにお願いしたい。ブラジル代表の日々に再び参加してくれることを。いつでもそうだったように、ブラジル代表と共に生きることを」
「次に同じく非常に大切なこととして、(メディアの)あなたたち一人ひとりを招集したい。そして、何らかの形でサッカーに関わる、すべてのプロフェッショナル一人ひとりをね。ここにあるのは“ドリバウのブラジル代表”ではない。“ブラジル国民の代表”なんだ。今この時、あなた方一人ひとりが手助けし、サポートしてくれることを願っている」
新体制のブラジル代表の船出は、3月のFIFA国際マッチデーに開催される親善試合イングランド戦とスペイン戦。ほとんど練習する時間もない中で、いきなり強豪とアウェイで対戦する。その招集メンバーについて「世代交代の進め方は?」「ブラジル国内組とヨーロッパ組の割合は?」等の質問が飛んだ通り、早くもメディアは自国の代表チームのニュースに、期待感を持って注目し始めている。
Photos: Kiyomi Fujiwara, Marcelo Cortes/Flamengo
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。