アーセナルのイングランド代表FWエディ・エンケティア(24歳)が、うれしいハットトリックを達成した。
亡き叔母に捧げたハットトリック
10月28日に行われたプレミアリーグ第10節のシェフィールド・ユナイテッド戦で、エンケティアは見事なゴールショーを披露した。試合序盤、アーセナルは完全に引いて守る相手に少し手を焼いていたが、28分に生え抜きのストライカーが均衡を破ってみせた。エンケティアは、ゴール前でMFデクラン・ライスのクロスに対して完璧なファーストタッチ。一発で相手DFと入れ替わってGKと1対1になり、冷静に流し込んで先制点をもたらした。
後半に入ると、CKのこぼれ球に反応してチーム2点目をマーク。さらに58分、今度はボックスの外から豪快に右足を振り抜いてロングシュートを突き刺しハットトリックを達成した。その後はファビオ・ビエイラがPKを沈め、さらに後半追加タイムにはプレミアリーグ50試合目の出場となった日本代表DF冨安健洋が節目の試合でクラブ初ゴールを決め、5-0でシェフィールドUを圧倒した。
過去にリーグカップで3得点しているエンケティアだが、プレミアリーグではこれが初めてのハットトリック。「つらいこともあった」と試合後に『BBC』に明かした彼は「先月、叔母を亡くした。だから3ゴールは叔母に捧げたい。叔母の家族も見に来てくれていたから特別な試合になった」とハットトリックを天国の叔母に捧げた。英国の風習通り、チームメイトからサインをもらってハットトリックのボールを持ち帰る際に「ボールはどうするの?」と聞かれると、24歳の青年は「母親にあげる」と答えたそうだ。
ハットトリックを決めても浮かれずに感謝の気持ちを忘れない。だから彼はここまで上り詰めることができたのだろう。14歳でチェルシーの下部組織から放出されたことについても「経験の一部さ」と振り返り、チェルシーを恨むよりも数日後に拾ってくれたアーセナルに感謝する。
ライト、アンリ、アルテタにも感謝
先月、初めてA代表に召集された際にもたくさん感謝を伝えた。「長いリストさ」と笑って見せてから、子どもの頃に毎試合のように送り迎えしてくれた「父」や「母」、そして「姉たち」への感謝を口にした。家族がいたからこそ、14歳で挫折を味わっても「この世の終わりじゃない」と思えたのだ。それから「友人」や「コーチ」たちにも感謝し、イアン・ライトやティエリ・アンリといったクラブの英雄の名前も出した。
特に「ティエリは本当に良くしてくれた。彼からたくさん自信をもらった」と、アーセナルの下部組織で実際に指導してくれたジェンドへの思いを語った。そして「監督の下でプレーして戦術面が伸びた。ストライカーとして、ボックス周辺だけが仕事場じゃないことを理解できた。間違いなく成長できた」とミケル・アルテタ監督への感謝も忘れなかった。
アルテタ監督は恐らく得点以外の部分の重要性を説いたはずだが、それによりエンケティアは「ボックス以外」でのシュートも磨くようになった。シェフィールドU戦での1点目と2点目はエンケティアらしいゴールだった。ゴールの前の一瞬の動きで違いを生み出す、まさに「フォックス・イン・ザ・ボックス(fox in the box)」といったタイプの得点だ。
しかし、3点目は全く違うタイプのゴール。強力なロングシュートだったが、それについてエンケティアは「最近、少しロングシュートも練習していたのさ」とクラブ公式HPのインタビューで明かした。
感謝を忘れずに日々精進。そんなエンケティアのハットトリックは、見ている者の心を温めるような快挙だった。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。