どう打開すべきか。新生ブラジル代表、南米予選で苦戦を強いられる
ブラジル代表が10月の南米予選を戦い、厳しい結果で終えた。ホームでの第3節ベネズエラ戦(クイアバー)を1-1と引き分け、アウェーでの第4節ウルグアイ戦(モンテビデオ)では0-2で敗れたのだ。
ブラジルがW杯南米予選で敗戦するのは、2015年10月8日vsチリ戦以来、実に8年ぶりのことだ。しかも、相手は2001年7月1日を最後に22年間負けていなかった、相性の良いウルグアイだ。
7月にフルミネンセとの兼任でブラジル代表監督に就任したばかりのフェルナンド・ジニスの下、その船出となった9月の南米予選では、ボリビアとペルーに連勝した。しかし、各国の力が均衡してきた近年、ブラジルでよく言われてきた「南米で勝つのは簡単」ということはない。
ケガ人続出が苦戦の一因に
ジニスには難問もあった。彼が呼びたいと明言しているルーカス・パケタ(ウェストハム)を賭博違反の疑いで、アントニー(マンチェスター・ユナイテッド)をDV疑惑で、今回も呼ぶことができなかった。
また、招集メンバー発表から集合日までに4人が負傷辞退となり、この遠征中にも2人が負傷離脱。結果的に両SBは4人全員が当初の招集メンバーから入れ替わる事態となった。さらにウルグアイ戦では前半、ネイマール(アル・ヒラル)が左膝の前十字靱帯断裂と半月板断裂という重傷を負い、担架でピッチを去った。
ウルグアイ戦での90分間のシュート数はブラジルが2、ウルグアイが5。お互いに数少なかったチャンスを、相手が得点に結び付けたという試合内容だった。
両SBのヤン・コート(ジローナ)やカルロス・アウグスト(インテル)といった新人を含め、選手個々は厳しいマークの中で打開を図る場面も多かったが、全体的に連携のミスが多かった。
攻撃陣も、ピッチにいる間はネイマールが、そしてロドリゴ(レアル・マドリー)やガブリエウ・ジェズス(アーセナル)もチャンスを作ろうとしたが、うまく繋がらない。68分にロドリゴの直接FKがバーに当たったのが、唯一の惜しい場面だった。
中盤でカゼミロ(マンチェスター・ユナイテッド)とブルーノ・ギマランエス(ニューカッスル)の守備の負担が大きくなったことも、攻撃が繋がらない要因となった。
攻撃的で独特なジニスのスタイル
ジニスのサッカーのスタイルは、全員がボールを追い求めるものだ。短いパスの多用と、味方にそのパスの選択肢を増やすための動きによって相手の守備を翻弄し、ゴールに近づく。彼はそれをフルミネンセに浸透させ、11月4日にコパ・リベルタドーレス決勝を控えるところまで引き上げた。非常に攻撃的で独特なそのサッカーは、ブラジル代表のこれまでのサッカーの概念を変えるものだ。
ただし、代表ではクラブのような練習時間も、積み重ねる試合数もない。それをどう克服するかは、代表監督就任当初から会見で繰り返された質問だ。また、クラブとの両立の難しさは、ブラジルサッカー連盟もジニスも分かった上でスタートさせ、それをカバーするスタッフの配置など、対策は取っている。
好材料は選手たちの様子だ。練習を見ていても、発言を聞いても、そのジニスのスタイルを会得することに非常に意欲的で、その過程を楽しんでさえいるように感じられる。ガブリエウ・ジェズスは合宿中、こう語っていた。
「ジニスとの最初の数日間で、何かとても新しいことに出会った。すごくポジティブな衝撃だった。そして彼は日々、選手のどういうポイントを、どこでどう生かすべきかを見ている」
マルキーニョス(パリ・サンジェルマン)も「うまくいく時も、そうでない時もあるけど、大事なのは、監督が日々フィードバックを与えてくれることだ。ビデオや会話で、僕らが何をすべきかを明確に自覚できるようにしてくれる」と語っている。
自分の役割について語る時も、表情は明るい。第一ボランチとして守備の要の役割を果たしてきたカゼミロは「ジニスの指示は少し違う。僕が常にボールに触り、パスを出して試合を統率し、リズムを作るように言われているんだ。僕はそれを気に入っているよ」と話す。
ロドリゴは「僕への指示は、僕がいつでもボールの近くにいて、ネイマールとの壁パスで展開すること。そして、サイドに開いたり、中に入ったりして、スペースを探してプレーするということ。僕はそんなふうにいろいろな役割で動くのが好きなんだ」と言う。
そうした選手たちの意欲について聞くと、ジニスはウルグアイ戦前も笑顔で答えていた。
「選手たちがオープンに受け入れてくれていることに感謝するばかりだよ。一緒に過ごす時間はますます良いものになっている。これからさらに深い関係を築いていけるはずだ」
選手たちはあくまでもポジティブ
選手たちが「新しい」と語るスタイルで今回、試合中に混乱が生じたのは明らかだった。それでも、11月にはアウェーでのコロンビア戦、ホームでのアルゼンチン戦という大一番が待ち受けている。しかも、アルゼンチンにはリオネル・メッシがいるが、ブラジルにはネイマールがいない。
準備としては、アルゼンチン戦がリオデジャネイロ開催なのを生かして、プライバシーが保たれやすく、日々の移動もないブラジル代表専用合宿施設をベースに滞在する案が浮上している。
また、すでにクラブでの試合に復帰し、活躍しているルーカス・パケタの招集が検討されているという情報もある。
メディアからは、今回の結果で早くもジニスへの不安が聞こえ始めた一方で、ブラジル代表には来年6月のカルロ・アンチェロッティ監督招聘という、公然の秘密のような話があることから「11月、フルミネンセでリベルタドーレス杯優勝を果たし、代表でアルゼンチンに勝って、ブラジル人監督の実力を見せてほしい」と期待する声もある。
これからも代表での時間が少ないことには変わりないが、ネイマールもケガをする前にはこう言っていた。
「新たな改革は一朝一夕でできることじゃない。選手にも、ジニス自身にも忍耐がなければ」
1分1敗の後、選手たちからは、落胆の表情の中にも前を見据える言葉が出ている。リシャーリソン(トッテナム)はこう語った。
「ジニスの試合のリズムやプレースタイルを会得するには、もう少しだけ時間がかかると思う。でも、僕らもすでに少しはつかみ始めているんだ。だから負けた試合を嘆くのではなく、次は今回のミスを修正することだ」
自分のプレーを反省し、前を向き直していたのはビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)だ。
「僕自身はこの2試合、全然良くなかった。クラブでのように代表でプレーするためには、もっと成長しなくては。でも、頭は冷静だよ。僕らは自分の国のためにプレーすることに、いつでも大きな喜びを持っている。ブラジル代表に相応しい試合ができるように、進歩しようと考えているんだ」
Photos: Kiyomi Fujiwara, Vitor Silva/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。