ラ・リーガのオールドファンならアルフォンソの名を覚えているかもしれない。レアル・マドリーの下部組織で育ち、18歳でデビューし21歳でレギュラーをつかむも、1994年の大ケガとラウール・ゴンサレスの台頭で活躍の場を失い、ベティスに移籍して78ゴールを挙げレジェンドとなった。
1990年代後半はスペイン代表の常連で、W杯に1度、欧州選手権に2度出場するなどして通算11ゴールを挙げ、オリンピック代表では金メダルを獲得。1部リーグのスタジアムに名前を冠する唯一の元選手だったのだが、ある発言がもとでその栄誉を失うことになった。
個人名がスタジアムから外される
10月4日、ヘタフェのホームスタジアムのオーナーであるヘタフェ市は「コリセウム・アルフォンソ・ペレス」から選手名を外し、単に「コリセウム」と呼ぶことにしたと発表した。10月2日に『エル・ムンド』紙に掲載された発言の一部が「女性のスポーツの価値観と正反対の方向へ向かっている」(サラ・エルナンデス女性市長のラジオ番組での発言)と判断されたからだ。
その問題箇所を『エル・ムンド』紙から拾ってみよう。
「男子サッカーと女子サッカーを同等にすることはできない。なぜなら、すべては稼ぎ出す金額とメディアの反響の大きさ次第だからだ」
「女子代表の選手と同じぐらいの報酬を受け取りたいという選手は他のスポーツにもいるだろう。だが、それはできない。私がクリスティアーノ・ロナウドと同じ年俸をもらいたくとも、彼ほど良い選手ではないからもらえないのと同じことだ」
「女子サッカーは不平不満を漏らすことはできない。進化はしたが、男子サッカーと同等にはできない。もっと地に足を着けるべきだと思う」
これが「サッカー選手になりたい女子には非常にネガティブな内容」(市長)と解釈された。
改名を受けても本人は反論
個人的な感想を言えば、男子と女子では稼ぎ出す金額が違うのは事実である。稼ぎに比例して報酬に差があるのも理解できる。
しかし、そんな現実があったとしても、代表レベルでは男女平等という理念の方に寄せて、報酬や待遇でも平等にすべきだと思う。少なくとも、平等に近づく努力をすべきだ。単純な話、儲かる男子サッカーの資金を女子の地位向上に使えばいいのだ。そうして、国の顔、理念の象徴と模範である代表では男女平等を実現する。
そうなっていない現状では女子選手が格差に文句を言い、ストに訴えたりすることは正当だと思う(彼女たちも完全平等までは訴えてはいない)。
よって、アルフォンソの発言の中で最も問題なのは、3つ目に引用した部分だと私は考える。
アルフォンソの言うことは、ビジネスの理屈では理解できる。だから民間のクラブレベルでは、男女平等の報酬を実現するのは大変困難だろう。報酬の平等は売上高の平等によって実現するはずだからだ。だが、不可能ではない。アルフォンソに一言アドバイスするなら、「同等に扱えない」の前に「今のところは」と入れておけば、印象はかなり変わったはずだ。
もともとアルフォンソはヘタフェ生れだが、ヘタフェでのプレー経験はない。レアル・マドリーファンであり、ヘタフェファンでもない。地元の名士ということで、投票で決まったスタジアム名だった。
彼は改名に関して「社会の一部には事実を言うことに不快感を持つ人たちがいる」「私は反女性ではない」「私には妻がいて娘がいる。おまけに彼女はサッカーをしている。いつか1部リーグ、代表に行ければいいなと思う。だが、娘のことでも男子と同等に稼ぐことは決してない、という考えは変わらない」と反論している。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。