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キス問題に端を発したスペインサッカー連盟vs女子選手の全面戦争、ついに決着へ

2023.09.21

 ルイス・ルビアレス前会長の無理矢理キス問題に端を発した「スペインサッカー連盟vs女子選手」の全面戦争がついに決着しそうだ。

「合意のうえで招集」は嘘だった

 8月26日付けニュースで速報し、9月7日付け記事で解説した後も揉め事は続いた。スペイン女子代表を世界一に導いたホルヘ・ビルダ監督が解任された後、新たに就任したのはモンセ・トメだった。女性監督だったが、前監督のアシスタントだったことで、39人の女子選手たちが招集拒否を表明していた。

 そんな中、9月18日にトメ新監督が発表した招集メンバーの中には、19人の招集拒否メンバーが含まれていた。会見の中でトメは「選手たちと話をして合意した」と説明。メディアの注視を逃れ、裏で見事に根回しに成功していたのかと思ったら、なんとこれが嘘だった。

 キスの被害者ジェニー・エルモソが未招集だった理由について、トメは「彼女を守るため」と説明するが、本人は「守るって何? 誰から?」と反論。他の選手も次々と合意を否定し、話がまったく通じていないことが明らかになった。

 翌9月19日、合宿所へ集まった選手たちに笑顔はなかった。選手たちと合意の上という嘘を付き、ライセンス剥奪の制裁をチラつかせて強制的に合宿させている構図が明らかになって、政府が動いた。その日の夜から20日の早朝にかけて連盟、選手、スポーツ上等委員会(連盟の監督機関)の三者会談が行われ、ようやく合意に達した。

選手たちの主張がほぼ認められる

 合意内容は、連盟会長の辞任と前監督の解任にとどまらず、根本的な改革を求める彼女たちの主張をほぼ全面的に認めるものだった。

 まず、2人の選手が「試合に出られるメンタルにない」と合宿を離脱するが、ペナルティは科せられず。次に「ルビアレスの右腕」と呼ばれ、辞任拒否劇のシナリオを描いたとされる人物が20日に解任。さらに前会長に近い2人がここ数日中に解任され、トメ監督も今回のネーションズリーグ2試合後に解任または辞任予定。それと引き換えに、選手たちは遠征に参加する――。サッカー連盟のペドロ・ロシャ暫定会長は「ドラスティックな改革には数カ月かかるので時間が欲しい」とこぼしていたが、ほぼ1週間で片が付く模様だ。

 9月21日朝、試合会場のスウェーデンに向かう飛行機が、一行を乗せて無事に飛び立った。

 今回の件をざっとまとめると、不祥事後も巨大な利権にしがみつこうとする悪あがきだった、と言える。世界一になり注目されたタイミングで選手たちが団結したことで改革が進むことになったが、途中敗退だったらどうなっていたことか?

 嘘や強弁で押し切ろうとする体質は、治外法権的に守られている巨大利権に由来する驕りであろう。トップが変わっても、中央から地方まで、会長から会員までが金で繋がる構造は手つかずのまま。権力は腐敗する。ルビアレスは労働組合(選手会)出身で民主的な人物のはずだったが、就任5年ちょっとでこうなった。連盟のことは今後もメディアを中心に監視していかねばならない。


Photo: Getty Images

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ジェニー・エルモソスペイン女子代表ホルヘ・ビルダルイス・ルビアレス

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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