ネイマールがブラジル代表に復帰し、歴史にその名を刻んだ日
今月開幕した2026年ワールドカップ南米予選で、ネイマールがブラジル代表に復帰した。ワールドカップカタール大会以来となる招集で、チームの2勝に貢献。しかも、その初戦ボリビア戦で2得点を決め、あの黄色いシャツを着て通算79ゴールに到達。これまで77ゴールでペレと並んでいたブラジル代表歴代最多得点記録を塗り替えることとなった。
目指すは自身4度目のW杯
W杯敗退が決まった準々決勝クロアチア戦の後、泣き腫らした目で取材エリアに現れたネイマールは、代表でプレーを続けるかは分からないとまで言っていた。その後、代表が年が明けてから行った3つの親善試合では、足首に手術を要するほどの重傷を負っていたため、招集されるコンディションにはなかった。
久しぶりにチームメイトたちに会ったネイマールには、少し照れているような様子も見られた。右脚太ももの負傷によってパリ・サンジェルマンから移籍したばかりのアル・ヒラル(サウジアラビア)でのデビュー戦が遅れ、一時は招集辞退まで心配された中での合流だったが、初日から真剣なのはもちろん、同時に非常に楽しそうにチーム練習に取り組んでいた。そして、今回初陣となるフェルナンド・ジニス監督の下、スタメンとしてプレーしたのだった。
W杯からここまでに、どんな気持ちの変化があったのか。彼は記者会見で「恋しかった」と語っていた。
「あなたは家を離れたことがある? その時、恋しく感じた? 僕もだよ。もちろん、敗戦で頭が一杯な時には悲しくなる。僕はブラジル代表に13年間いるけど、いつか終わりも来る。あの時はそれが僕の頭をよぎったんだ。多くの批判にさらされると、自分がやってきたことの価値を見失ってしまう。でも、家族と過ごす中で、ブラジル代表のシャツを着る幸せを続けていく価値に再び気づいたんだ」
これからネイマールは、彼にとっての4度目のW杯を目指すことになる。同時に、ブラジルにとって6度目のW杯優勝にも挑戦することとなる。これまで2014年大会の後も、2018年の後も、その優勝への挑戦をどう思っているかを質問してきた。彼がいつでも「早く次のW杯でプレーしたくてたまらない」と言っていたのを思い出し、今回もボリビア戦前日に同じ質問をした。
「その道のりを考えるのは難しいよね。3年間は長いけど、あっという間でもある。僕らの道のりは今始まるんだ。明日の試合から始まる。一つのリニューアルだから一朝一夕でできることじゃないし、最初からジニスの求めるプレースタイルで、すごく良い試合ができるわけでもない。ジニスにも少し忍耐が必要になるよね。それは練習を続ける中で成果が出ることだから。チッチの時もそうやって成果を出したようにね。W杯で優勝できなかったとは言え、僕らはできることはすべてやったし、チッチの仕事がブラジル代表のみんなにとって、とても重要なことだったのはわかっている。そういうことだ。僕らは今から始めないといけない。ここに来る時にはブラジル代表に完全に集中してベストを尽くす。まずは南米予選を突破しなければならない。その後、僕らの目標であるW杯優勝を達成するためにね」
「愛情を受けることで努力は価値あるものになる」
ブラジル代表が滞在した6日間、ホームゲーム開催地となったベレンの街は、毎日がお祭りのようだった。ホテルやスタジアムの周囲には、選手を一目見ようと多くのサポーターが詰めかけた。選手たちはその声援に感謝を示すために、写真やサインに応じ、ホテルのテラスに出て手を振った。中でもネイマールは、誰よりも多くサポーターに応対する機会を作っていた。
「サポーターの愛情はすごくうれしいよ。見ていて誇りに思う。彼らはただ僕らのためにそこにいて、僕らの名前を呼び、純粋に手を振ったり笑顔を見せたりしてくれる。僕にとってあれ以上のものはないよ。ブラジル代表のシャツを着て練習と戦いを続け、日々ベストを尽くしていくうえでね。というのも、多くの人には実際に僕が何をし、何に苦しみ、日々どんなことを頑張っているのかわからない。だから、こういう愛情を受けることで、僕の努力は価値あるものになるんだ。そして僕はピッチの中でゴールを決め、代表を手助けすることでお返ししたい」
そうして臨んだボリビア戦。ネイマールはピッチを縦横無尽に駆け回った。16分のPKこそ外したものの、CKやFKを蹴り、ドリブルで持ち込み、フェイントで相手を交わした。再三のパスを供給し、ハフィーニャのゴールのアシストもした。
そしてついに61分、ネイマールのゴール。その直後、彼はガッツポーズをしながら2度も跳び上がり、涙を滲ませてチームメイトたちやジニスと抱き合った。さらに後半終了間際にも、もう1つのビューティフルゴールを決めた。
チームメイト全員が記録更新を祝福
試合後、会見場でブラジル代表史上最多得点の表彰が行われた。ブラジルサッカー連盟エジナウド・ホドリゲス会長から記念の盾を渡された時には、ネイマールへのサプライズでチームメイト全員が会見場に登場し、一緒に祝った。
「すごく幸せだし、すごく……言葉にできないほどだよ。この記録を達成できるなんて想像もしていなかった。ペレの記録を越えたからと言って、僕がペレやブラジル代表の他の選手よりも優れているというわけじゃない。ただ、歴史を築きたい、自分の名前をブラジルサッカーとブラジル代表の歴史に刻みたいといつも思っていて、今日それができた。だから僕の家族と、ここにいるチームメイトみんなに心から感謝している。ありがとう」
最後は声が震え、急いで挨拶を締めくくり、会見場を去ろうとして、チームメイトたちに笑われた。
チームはネイマールとともに、このボリビア戦を5-1、続くペルー戦を1-0と、連勝で今回の日程を終えた。ジニスが言っていた。
「ネイマールは楽しみ、2ゴールを決め、記録を破った。そういう時を過ごすことに大いなる意欲を見せた。私は確信している。これが彼の輝ける今後に向けた始まりにすぎないことをね」
Photos: Kiyomi Fujiwara, Vitor Silva/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。