開幕2連敗でプレッシャーにさらされるエバートンの“便利屋”は、チームの危機を救うことができるのだろうか。
プレミアリーグのエバートンが早くも追い込まれている。昨季、何とか最終節で残留を手繰り寄せた古豪クラブは、今季も苦しいスタートを切ることになった。開幕戦でフラムに後れを取ると、8月20日に行われた第2節のアストンビラ戦ではなす術もなく0-4で完敗。クラブ史上68年ぶりとなる無得点での開幕2連敗という屈辱を味わい、早くもショーン・ダイシ監督に解任の噂が出始めている。
残留に貢献からの欧州制覇
そんなチームで便利屋として頑張っているのが22歳のMFジェイムズ・ガーナーだ。186cmのセントラルMFは名門マンチェスター・ユナイテッドの下部組織出身。ユナイテッドではリーグ戦2試合にしか出場できず、ローン移籍を繰り返したあと、昨夏エバートンに完全移籍でやってきた。
U-15世代までCBだったガーナーは、その後は中盤を主戦場とするようになり、主にボランチとしてプレーしてきた。だが今は“何でも屋”として輝きを見せている。移籍1年目の昨季はケガの影響もあってリーグ戦16試合の出場にとどまったが、それでもクラブが69年ぶりに2部降格の危機に瀕していたシーズン終盤に右サイドハーフとして起用されて万能ぶりを発揮。1試合の中で右MF、右SB、右ウィングバック、セントラルMFと4役をこなしてみせた。
何とか残留に貢献したガーナーは今夏、ヨーロッパの頂点に立っていた。U-21イングランド代表として出場したU-21欧州選手権で母国を39年ぶりの優勝に導いたのである。彼のポジションは中盤ではなく右SBだった。全6試合に出場して安定したパフォーマンスを披露したガーナーは、本職ではないポジションでUEFA技術委員が選ぶ大会ベスト11に選出された。
「僕はプレッシャーが好きなんだ」
どんなポジションだろうが力を発揮できるのはユナイテッドのアカデミー、そして兄に鍛えられたからだという。ユナイテッドの下部組織では「どんなポジションでもボールをしっかり扱えることが大事だった」とガーナーは英紙『The Times』に説明する。
「そしてユナイテッドには勝者のメンタリティがあった。ファーストチームもアカデミーも大半の試合に勝っていたからね。それから5歳上の兄との勝負でも鍛えられた。5歳差があるので、勝ちたくても勝てない。それでも必死に勝利を目指す。勝利以外の結果はいらないからね」
ガーナーは、ここ1年で様々な経験をして一回り大きくなった。2021-22シーズンには当時2部にいたノッティンガム・フォレストにローン移籍して、シーズン大詰めのプレーオフ決勝ではフォレストの23年ぶりのプレミアリーグ昇格に貢献した。そして昨季はエバートンで69年ぶりの降格を回避し、今夏はU-21イングランド代表を39年ぶりの欧州制覇に導いたのである。プレッシャーのかかる試合ばかりだったが、そんな状況下でこそ彼はひときわ頑張れる。
「試合前日は緊張するけど、ピッチに立ってボールに触れば大丈夫。『毎日プレーしているフットボールだ』と思えるのさ。僕はプレッシャーが好きなんだ。すべてを賭けた一戦という時こそ100%を出し切れる」
U-21欧州選手権の金メダルを「引っ越したあと、盗まれないように隠したら、休暇から戻ってきて、どこに隠したか分からなくなった! 靴下の中にあったよ」とピッチ外ではお茶目な一面も覗かせる22歳の便利屋。プレッシャーにさらされる試合が続くエバートンでも、彼は臆することなく100%の力を発揮し続けるはずだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。