ネイマールのアル・ヒラル移籍に、ブラジル国内では賛否両論
8月15日、ネイマールのアル・ヒラル移籍が正式に発表された。サウジアラビア行きが濃厚となった頃から今に至るまで、ブラジルメディアでは、コメンテーターやジャーナリストたちが、複雑な思いと共に日々進行する状況を伝え、ネイマールの今後について議論している。
『TVグローボ』のヨーロッパ特派員であるギリェルメ・ペレイラの説明がわかりやすい。
「ネイマールのアル・ヒラル移籍は、多くの人にとって、彼が自分の経歴においてスポーツ面を優先するのではなく、金銭面によって選択したように聞こえるかもしれない。しかし実際は、このサウジアラビアのクラブはネイマールにとって、2027年まで続くはずだったパリ・サンジェルマンとの関係を、即座に中断するための唯一の方法だったのだ。もはや幸せを感じられなくなった場所を、4年早く去るための出口だった」
PSG残留もバルサ移籍もかなわず
そうなのだろう。ただ、ギリェルメも詳細で語っている通り、幸せを感じられないから去りたいというほど、シンプルな流れでもなかった。チェルシーへの移籍が噂されていた7月下旬には、ネイマールはブラジル人ストリーマーのカジミーロによるインタビューでこう答えていたのだ。
「PSGにいられることを願っている。契約があるし、(移籍に関しては)誰も何も僕には知らせていない。サポーターと選手の間にあまり愛がないとしても、僕はあそこにいる。愛があってもなくてもね」
その決意でパリに戻り、プレシーズンをスタートしたものの、状況を変えることはできなかった。
8月11日には、選手名や詳細こそ明かされなかったものの、戦力外通告をネイマールにしたことが、PSGのルイス・エンリケ監督本人によってコメントされた。それと同時に、やはり移籍に関して渦中の人であり、チーム練習からも外されていたキリアン・ムバッペがチームに合流するなど、憶測と事実が混在するニュースが流れていたのは周知の通りだ。
ネイマールに対しては、世界中のクラブが興味を示し、ヨーロッパやアメリカからもオファーがあったと言われている。しかし、アル・ヒラルがPSGに対して提示した移籍金に迫る金額を出せるクラブはなく、PSGの方も、金額に関して柔軟に交渉する姿勢は全くなかったという。
ネイマール本人はバルセロナ復帰を希望していたとも伝えられる。監督のシャビが消極的だったというニュースもあったが、新しくバルセロナのディレクターに就任した元ポルトガル代表のデコは、ネイマールとの契約を試みたことを認めながら、「残念ながら今、我われの経済状況では、こういう契約をするのは不可能だった。PSGとの相互理解や中東のクラブとの合意が必要だったが、それは実現しなかった」と語っていた。
それでも、アル・ヒラル行きに関して、拒否しようのない金額だと言うコメンテーターやジャーナリストもいる。また、スポーツ番組キャスターのアンドレー・ヒゼッキは「このオファーを受け入れるということは、僕の見方では、ネイマールが世界サッカーの一線級に立つ選手であるという夢に別れを告げるのと同じだ」としている。
ただ、フランス『レキップ』紙が「ネイマールの願いは、この契約が終わる33歳でヨーロッパサッカーに戻るということ。そして、目標は2026年W杯を戦うことだ」と書いたように、彼の移籍関連を含むニュースは、これからも世界を賑わせ続けることだろう。
代表の活動に影響はあるのか
ともかく、ネイマールはサウジアラビア行きを決めた。アル・ヒラルは国内屈指のクラブであるだけでなく、近年のAFCチャンピオンズリーグでは、2019年と2021年に優勝している。その結果によって出場枠を得たクラブW杯でも、2019年に準決勝進出、2021年には決勝進出を果たした。元フラメンゴ監督ジョルジ・ジェズスが指揮を執ることも、ネイマールの助けになるかもしれない。
現在コメンテーターとして活躍する、元選手のアレックスはエールを送る。
「もちろん、ブラジル最高の選手を主要リーグで見られないのは悲しい。しかし、彼はケガさえしなければ――いや、サウジでは確実にケガが減るはずだ――そうすれば、彼には生まれ持ったフィジカルコンディションがあるのだから、問題なく高いレベルでプレーし続けるはずだ。そして、クラブW杯で決勝に到達し、優勝するチャンスだってある。我われは彼が以前もそうだったように、好調であり続け、幸せであるように応援している」
9月からは2026年ワールドカップ南米予選がスタートする。ケガで5カ月間試合に出ていなかったことや、移籍の都合でプレシーズンを中断したことなどにより、ブラジル代表新監督フェルナンド・ジニスが当面、招集や試合への起用の上でコンディションを配慮する可能性はある。それでも、彼のクオリティと、2026年W杯ではまだ34歳であることを考えても、今後も代表にとって大事な存在であり続けることには変わりない。
ジーコと共にW杯2大会を戦った元ブラジル代表で、現在はコメンテーターを務めるジュニオールは、サウジアラビアでプレーすることによる、ネイマールのパフォーマンスへの不安はあるかと聞かれてこう答えていた。
「競争力の高いリーグでプレーするのではないが、何人ものビッグネームたちがあちらでプレーすることは、彼がブラジル代表でプレーするために、より良いコンディションを維持する助けになり得る。僕は問題ないと思う」
やはりサッカーコメンテーターであるジーニョは、彼自身が横浜フリューゲルスでプレーしていたJリーグ初期の時代を例に出して話していた。
「当時、日本にはブラジル代表はもちろん、ダービーマッチの相手だった横浜マリノス(現・横浜F・マリノス)にはアルゼンチン代表選手たちがいて、絶対に負けたくなかった。イタリア代表のスキラッチ、ユーゴスラビア代表のストイコビッチ……そういう選手がゴロゴロいたんだ。日本サッカーのレベルは、今と違って少し低かったかもしれないけど、ライバル意識も競争力も高かった。サウジアラビアも強力なリーグになるよ」
「リーグの成長を手助けするために行く」
ブラジル代表が2018年に親善試合でサウジアラビアに行った時のことを思い出す。世界のどこでもそうであるように、現地の子どもたちはネイマールに夢中だった。そして、ネイマールは今回の移籍に当たって、クラブが紹介したインタビューでこう語っていた。
「こういう挑戦に向かう時というのは、自尊心が高まるものだ。僕はリーグがますます成長するのを手助けするために行くんだよ」
この原稿を書いている時点で、クラブ公式映像以外で、ネイマールがじっくり語る言葉を、まだ聞いていない。彼の様子や表情を間近で感じるのも、代表合流を待つことになる。
しかし、これまで常に「どの大会にも出たい」「どの試合にも出たい」と語ってきたネイマールのサッカーへの熱い思いは知っている。サウジアラビアから、ネイマールの新たな挑戦が始まる。
Photo: Getty Images, Lucas Figueiredo/CBF
Profile
藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。