NEWS

自身の経験をもとにサポート。女子選手を支える元ユナイテッドのウィンガー

2023.08.17

 オーストラリアとニュージーランドで開催されている女子ワールドカップも佳境を迎え、決勝のカードが決まった。8月20日にシドニーで行われるファイナルではスペインイングランドが激突する。その決勝戦で初優勝を目指すイングランド女子代表のMFには、信頼のおける「相談相手」がいるそうだ。

「あれが人としての僕の成長を妨げた」

 今大会、MFジョージア・スタンウェイ(24歳)は目覚ましい活躍を見せている。グループステージ初戦のハイチ戦でスタメン出場してPKで決勝ゴールを決めると、その後はチームメイトのケガや出場停止などもあって、ここまで全6試合に先発出場。8月16日に行われた準決勝オーストラリア戦もフル出場してイングランド女子代表の初の決勝進出に貢献した。

 そんなスタンウェイには心のよりどころと呼べる「相談相手」がいる。それがマンチェスター・ユナイテッドなどでプレーした元男子プロ選手のルーク・チャドウィック氏(42歳)だ。元U-21イングランド代表のチャドウィック氏は、ユナイテッドの生え抜きとして注目を集めるも同クラブではレギュラーに定着できず、その後はウェストハム、ストークなどで渡り歩いて2016年に現役を退いた。そして今は、若い選手たちのアドバイザーを務めているという。

 2020年5月、彼はこんなツイートをした。「僕は若手選手の頃に、容姿について侮辱されて精神的にかなり苦しんだ。これまでは恥ずかしかったので当時の気持ちを話せずにいた。誰だって人に相談するのが難しいこともあるが、私たちは自分の気持ちを口にして苦しみを乗り越えるべきなんだ!」

 往年のプレミアリーグファンは覚えているはずだ。チャドウィックがユナイテッドでデビューを飾ったのは、イングランドの英雄デイビッド・ベッカムや元ウェールズ代表MFライアン・ギグスなどのスター選手が絶大な人気を誇った時代。彼らは華麗なプレーと端正な顔立ちでポップスターのように称えられた。一方、チャドウィックはあまり格好いい選手ではなかった。そのためファンやメディアに面白半分で容姿を弄られたのだ。

 英国公共放送『BBC』で人気だったスポーツバラエティ番組「They Think It’s All Over」でさえも、彼の容姿を何度も小馬鹿にした。「(放送日の)金曜日が怖くなった。止めるようBBCに言うべきか悩んだが、19、20歳の若者がBBCに意見することなどできたのだろうか?」とチャドウィック氏はスポーツ専門サイト『The Athletic』で振り返ったことがある。

 憧れだった元イングランド代表FWギャリー・リネカーまで番組内で自分の容姿について触れるのを見たチャドウィック氏は「悲しくなった。僕は元からシャイな少年だったので、あれが人としての僕の成長を妨げたんだ」と明かしていた。

公私に渡って相談に乗るチャドウィック

 そんな経験を持つチャドウィック氏だからこそ、できることがあるようだ。現在バイエルンの女子チームで活躍するスタンウェイだが、マンチェスター・シティ時代には精神的に「浮き沈み」があったという。そこで東京五輪を1年後に控えた2020年、スタンウェイはチャドウィック氏に相談するようになった。というのも、チャドウィック氏は現役選手たちを支えるためにスタンウェイと同じエージェンシーに所属するようになったのである。

 「ここ数年、週に1~2回は話している」とスタンウェイは英紙『The Guardian』で明かした。シーズンの目標、自身の立場、ゴール数やアシスト数といったプレー面、さらに自宅の掃除など、いろいろなことを話してきたという。「最高の人だわ。みんなに良くしてくれる」とチャドウィック氏を絶賛する。

 今大会も試合の前日に必ずチャドウィック氏と話しているというスタンウェイ。激しいタックルを売りとする彼女は、初戦でイエローカードをもらい、いきなり累積警告のリーチとなったが、何とか2枚目をもらわずにやってきた。準々決勝のコロンビア戦では危ない場面もあったという。遅れたチャレンジで相手を倒してしまったのだ。それでも主審に「本当にすみません」とすぐに謝ったところ「大丈夫よ」と許してくれたので、すぐにその場から立ち去ったという。

 次は8月16日のファイナル、運命のスペイン戦だ。相談役という心強い味方がいるジョージア・スタンウェイは、果たしてイングランドを世界一に導けるのだろうか?


Photo: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

イングランド女子代表ジョージア・スタンウェイデイビッド・ベッカムマンチェスター・ユナイテッドライアン・ギグスルーク・チャドウィック

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

関連記事

RANKING

関連記事