イングランドでは、フットボールとギャンブルの関係が問題視されている。
スポーツの中でもフットボールはひときわ強い影響力を持っており、中でも世界最高峰のリーグであるプレミアリーグが若者に与える影響は計り知れない。そのため、ユニフォームの胸スポンサー
選びも注目を集める。
新シーズンに向けて新ユニフォームが発表されているが、ここ1週間ほどで3つのクラブが新たにギャンブル企業との胸スポンサー契約の締結を発表した。これが一部で批判を集めており、イングランドの国民保健サービス(NHS)の責任者であるアマンダ・プリチャード氏も強い懸念を示している。
フットボールの影響力は大きい
プリチャード氏によると、イングランドではギャンブル依存症の患者が急増しており、2022-23シーズンには過去最多となる1389人がギャンブルを理由にNHSに相談したという。これは2年前の約2倍の数字だ。そのためNHSは、ギャンブル依存症専門のクリニックを既存の8施設に加え、今夏新たに7施設オープンさせる。
プリチャード氏は英国放送局『BBC』の番組で「ギャンブル業界とフットボールクラブが自分たちの責任について真剣に考えてくれることを切に願っています」とフットボールが与えている影響について言及した。とりわけユニフォームの胸スポンサーは日常から目にするものなので「子どもたちは“ギャンブルは問題ない”というメッセージを受け取ってしまっている」と問題を指摘した。
もちろん、プレミアリーグが問題に気づいていないわけではない。今年4月、プレミアリーグは話し合いの結果、2026年夏から全クラブが自主的にギャンブル系の胸スポンサー契約を結ばないことを発表した。プレミアリーグによると、ギャンブル関連の広告を自主的に規制するのは英国スポーツ界では初の試みだという。
胸スポンサー契約は規制されるが…
昨季、プレミアリーグでは20クラブのうち実に8クラブが胸スポンサーにオンラインカジノなどのギャンブル企業の名前を入れていた。世界最高峰のスポーツリーグでしのぎを削るクラブのメインスポンサーのうち、4割が1つの業界に偏るという異様な光景だったのだ。そこで、ようやく4月に将来的な自主規制の導入を発表したのだが、それでもバーンリー、フルアム、アストンビラの3クラブが新たにギャンブル企業を胸スポンサーに迎えたのである。
クラブ側にも事情はある。熾烈な競争が繰り広げられるプレミアリーグで生き残るためには資金が必要であり、胸スポンサーは重要な財源だ。そのため、1社につき平均750万ポンド(約13億円)と言われているギャンブル企業の胸スポンサー料に手を伸ばす気持ちも理解できる。
2026年夏、各クラブのユニフォームの胸からはギャンブル企業の名前が消えることになる。だが、今のところ、その後もユニフォームの袖やスタジアムの広告看板には広告を打つことが許されているのだ。
英国フットボール界が今後、どのようにしてギャンブル問題と付き合っていくのか注視したい。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。