NEWS

引退しそうで引退しない。最年長監督ロイ・ホジソンの新章が始まる

2023.06.28

 8月で76歳になるロイ・ホジソン監督が、クリスタルパレスとの契約を延長することになった。

 これまで8か国を渡り歩いて計22のクラブと代表チームを率いてきたホジソン監督が、クリスタルパレスとの契約を延長することで合意したという。ホジソンは今年3月にパトリック・ビエラ前監督の後任としてパレスの指揮を託されると、すぐに結果を残してチームを残留に導いた。当初の契約は今季いっぱいだったが、クラブ首脳陣は様々な選択肢を精査したうえで、主力選手から圧倒的な支持を受けるホジソン監督との契約を延長する方針を固めたという。

約半世紀に渡るキャリア

 これで新シーズン開幕前に76歳の誕生日を迎えるホジソン監督は、自身が持つプレミアリーグの最年長監督記録を更新することになる。本人はシーズン終了時に「選択肢はオープンにしておく。どうなるかわからないからね」と自身の去就について語っていた。

 彼に「引退」の文字は似合わないのだ。無論、引退を示唆したことは何度あった。2年前もそうだった。自身が1960年代に選手キャリアをスタートさせた古巣クリスタルパレスを率いて4シーズン連続でチームを残留に導いた後、「プレミアリーグの厳しい世界から身を引く時がきた」と当時73歳の指揮官は口にしていた。

 だが、その時でさえも「引退」の言葉は使わなかった。

 「誰にもわからないことだからね。まだ活力があるうちは、引退といった大胆な発言は避けるべきだと思う。別に新たな監督職を探そうとは思わないし、一度フットボール界から身を引くつもりだが、どうなるかは誰にもわからない。今は妻や息子と時間を過ごしたい。過去50年間は、なかなかそれができなかったからね」

 主にイングランドの下部リーグでプレーした現役時代は脚光を浴びることがなかったホジソンだが、1976年にスウェーデンのハルムスタッズで監督キャリアの第一歩を踏み出すと、それから約半世紀に渡ってヨーロッパを股にかけて名采配を振るってきた。イタリアのインテルでUEFAカップ準優勝という結果を残したほか、フラムやリバプールを率いてプレミアリーグでも戦った。そしてスイス代表、UAE代表、フィンランド代表、さらにイングランド代表といった重責の伴う監督職も務めてきた。

10試合で勝ち点18をもたらす

 長く続けることも大事だが、それ以上に正しい振る舞いで続けることの大切さを彼は体現してきた。2年前に退任した際には様々な監督がホジソンの功績を称えた。アーセナルのミケル・アルテタ監督に至っては「彼の姿勢は私のような若い監督にとって素晴らしい手本だ」と称賛を送った。

 その後、ホジソンは半年後にワトフォードの監督に就任してチームを降格の危機から救おうと尽力したが、残念ながらワトフォードは19位で2部に降格。その時にもホジソンは引退を示唆した。

 「私は短期契約で監督の仕事を引き受けて引退から復帰した。残念な幕切れになってしまったがね。今後、私はプレミアリーグの世界に身を置かないだろう。私には身を引く権利があるはずだ。妻や息子と時間を過ごしたい」

 だが、そう語ってから約10カ月後の今年3月、ビエラ監督の下で下降線を辿っていた古巣クリスタルパレスのSOSに応えて75歳で現場に戻ってきた。監督のオファーが来たことについて「うれしい驚き」と語りつつも「ただ、誰かが職を失ったことを意味するので心の底からは喜べない」と前任者のビエラにも気を使った。そして監督職を引き受けたことについて「妻はあまり文句を言わなかった。少し私と距離を置けると喜んでいるかもね」と冗談も忘れていない。

 引退についても「みんなが私は引退したと決めつけていたので引退を受け入れていたよ。街で会う人にも『隠居生活を楽しんでいる?』と声をかけられたしね。だが、私自身は引退するような年齢に感じたことなどないのさ」と豪語。

 そしてパレスを率い、それまで公式戦で13試合も勝利から遠ざかっていたチームにいきなり勝利をもたらすと、そこから3連勝。10試合で勝ち点18を稼ぎチームを11位まで浮上させたのだ。1試合平均「1.8ポイント」というのは、シーズン全体で見るとトップ4に次ぐ成績だった。

 引退しそうで引退しない。そんな最年長監督が、来季もパレスを率いてプレミアリーグの舞台で戦うことになるようだ。


Photo: Getty Images

footballista MEMBERSHIP

TAG

インテルクリスタルパレスパトリック・ビエラプレミアリーグリバプールロイ・ホジソン

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

関連記事

RANKING

関連記事