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シーズン佳境の欧州各国リーグ。「ビーチ気分」のチームはいるのか?

2023.05.22

 欧州各国のリーグ戦が佳境を迎えているが、既に「ビーチ気分」のチームはいるのか?

 シーズン終盤になると、優勝争いや残留争い、はたまた欧州カップ戦の出場権争いに注目が集まる。彼らは勝ち点を1でも多く積み上げようと死に物狂いでプレーする。だが、シーズン佳境には「目的を失った」チームも出てくる。

 既に残留は決まっているが、欧州カップ戦の出場権を得られるわけでもない。クラブの歴代最高成績を目指すこともできず、シーズン終盤にカップ戦のファイナルが控えているわけでもない。そんな頑張る理由が見当たらないチームをイングランドでは「on the beach」と呼ぶことがある。シーズンは終わっていないが、既に選手の心は夏の休暇で行く「ビーチの上に」あるということだ。

 私たちだって経験したことがあるはずだ。学生生活で夏休みや卒業式を控えたタイミングを思い出して欲しい。クラス内には浮かれ気分が充満しており、授業に集中できる状態ではない。教師たちもそれを理解しており「今日は自習にします」「今日はこの映画を見ます」と授業を放棄することもあるはずだ。

 では、何億円も稼いでいるプロの世界でもそんなことが起こり得るのか? 英紙『The Guardian』がその真偽を名将に確認しているので紹介しよう。

「手を抜くなんてリスクしかない」

 今シーズンのプレミアリーグでは、UEFAチャンピオンズリーグから敗退し、上位を狙えることもできなくなったチェルシーの不振が目立った。一方で、イタリアでは5月4日に33年ぶりのリーグ制覇を果たしたナポリが、10日後にはモンツァに0-2であっさりと敗れた。やはり選手たちは目標を失った後に「ビーチ気分」になってしまうのだろうか?

 それに異を唱えるのが、イングランドフットボール界のご意見番である御年76歳のハリー・レドナップだ。選手時代を含めると60年近くプロの世界に身を置いてきたレドナップは、自分が率いたチームに限ってそんなことはなかったと否定する。

 ウェストハムやトッテナムを率いてきたレドナップは「今の選手たちはみんな勤勉で、お酒を飲む選手も皆無に等しいし、自己管理を徹底する」と『The Guardian』に語る。「4万人以上のファンが叫んでいる状況で、手を抜くなんてリスクしかない。ピッチに立って頑張らないことなどあるだろうか? むしろ、プレッシャーから解放されたことで良いプレーができるものさ」

 これまで幾度も残留争いに身を置いてきたレドナップは、そんな光景を何回も目の当たりにしてきた。サウサンプトンを率いていた2004-05シーズンには、残留争いがクライマックスを迎えた最終節に、命懸けで戦うノリッジが何も目標を持たないフラムに0-6で大敗を喫したのだ。もちろん、自身が率いるチームが「ビーチ気分?」と呼ばれる側になったこともある。

ファンのために戦いユナイテッドの優勝を阻止

 1994-95シーズンのプレミアリーグは、ブラックバーンとマンチェスター・ユナイテッドによる優勝争いの一騎打ちが最終節までもつれた。2ポイント差で首位に立つブラックバーンが最終節のリバプール戦に敗れたことで、ユナイテッドは勝てば3連覇を達成できることになった。彼らにチャンスをもたらしたのも、絶望の淵に突き落としたのも“レドナップ”だった。

 ハリー・レドナップの息子であるリバプールのMFジェイミー・レドナップが、ブラックバーン戦の90分に決勝弾となるFKを沈めてブラックバーンを倒してくれたのだ。その情報は、すぐにロンドンで戦うユナイテッドの元に届いた。勝てば3連覇となるはずだったが、彼らの前には“父レドナップ”が立ちはだかった。

 レドナップ率いるウェストハムは、残留を確保したとはいえ上位を目指せるわけでもなく、まさに「on the beach」の条件がそろっていた。それでも彼らは必死に戦い、先制点を奪うと、その後は死に物狂いで守った。実力で勝るユナイテッドに押し込まれて同点ゴールを許すも、決勝ゴールだけは与えなかった。

94-95シーズン、レドナップ率いるウェストハムは死力を尽くしてマンチェスターUの優勝を阻止した

 「すごい日だったね」とレドナップは振り返る。「残り15分のところで私は新たにCBを投入し、5バックにして必死で守ったのさ。ファーギー(アレックス・ファーガソン)は不機嫌そうだったね」

 「引き分けることができて嬉しかった。マンチェスターUの事情なんか関係ない。彼らが優勝しようがしまいが知ったこっちゃない。我われはシーズン最終日、ファンのためにプレーするだけだったのさ」

 だからレドナップは「on the beach」なんて考えられないと証言する。むしろ、そういった「何もかかっていないチーム」よりも、カップ戦を控えてメンバーを落としてくれるチームの方がよっぽど戦いやすいという。確かに先日ウェストハムは欧州カンファレンスリーグで決勝進出を果たしたが、準決勝のセカンドレグの直前にはリーグ戦でメンバーを落とし、力なく負けていた。

 果たして「ビーチ気分」のチームは本当にいるのか? シーズン最終盤を迎えた欧州各国のリーグ戦に注目したい。


Photos: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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