ウェールズ北部の街が優勝パレードに沸いた。レクサムが15年ぶりにイングランドのプロリーグ復帰を果たしたのだ。
ウェールズの街からイングランドリーグに参戦しているレクサムは、2008年に4部リーグからノンリーグに転落して以降、プロリーグとされる4部に上がれていなかった。だが今季、彼らは「111ポイント」を稼ぐ強さを見せつけて5部リーグを制し、見事に4部昇格を果たした。
クラブに転機が訪れたのは2021年のこと。ハリウッド俳優がクラブを買収し、積極的にチームをバックアップし始めたのだ。映画『デッドプール』でゴールデングローブ賞を受賞したカナダ出身のライアン・レイノルズ(46歳)と、TVドラマ『フィラデルフィアは今日も晴れ』で知られるロブ・マケルヘニー(46歳)が、クラブを劇的に蘇らせることとなった。
今季は元ウェストハムのMFエリオット・リーを獲得したほか、今年3月にはマンチェスター・ユナイテッドやワトフォードなどで活躍したGKベン・フォスター(40歳)もチームに加わった。5部リーグとしては異例の豪華メンバーで見事に昇格をもぎ取ったのだ。
そして今月2日、2階建てのオープントップバスに乗って優勝パレードを行い、トップチーム、女子チーム、そしてオーナーたちがバスの上から数千人のファンに手を振った。パレードには国内外からファンが集まったという。チームを一目見ようとわざわざアメリカから駆けつけたファンもいたそうだ。彼らは『Disney+』で放送されたクラブのドキュメンタリーを見てファンになり、ウェールズまで足を運んだ。「アンダードッグの物語に惚れた。レクサムの街は温かいし趣がある」と英放送局『BBC』のインタビューに答えていた。
アメリカだけではない。ニュージーランドからやってきたファンもいる。さらに、地元市民がレイノルズ共同オーナーの故郷であるカナダの国旗を持ち出したことで、パレードはとても国際色豊かなものになった。
引退したベイルの獲得&復帰も画策
既にクラブのドキュメンタリーはセカンドシーズンの放送が決まっており、さらにファンが増えると予想される。おかげでスポンサーも集まっており、クラブの収入は何倍にも跳ね上がったが、昨年6月までの1年間の収支決算では290万ポンド(約5億円)の赤字だった。
それでもオーナーは「クラブは間違いなく自立経営できる方向に動いている」と経営面でも手応えを口にする。そして「どんなビジネスでも、拡大して永続可能であることは大事だ。お金は失いたくないが、それでも我われはお金のためにここにいるわけではない」と断言する。
彼らが目指すのは、当然だが華やかなプレミアリーグの舞台だ。そのためにウェールズの英雄の獲得も画策する。今年1月に33歳で現役引退を発表した元ウェールズ代表FWガレス・ベイルを口説いているのだ。
SNS上では現役復帰を誘う冗談ぽいやり取りを交わしたが、単なる冗談では終わらない可能性がある。ウェールズの放送局のインタビューで共同オーナーのマケルヘニーは「我われは真剣だよ。ベイルがどう思っているかはわからないがね」と説明した。引退していた元イングランド代表GKベン・フォスターもレクサムに誘われて現役復帰を果たしたのだから、ベイルだって再びユニフォームに袖を通す日が来るかもしれない。
いずれにせよ、レクサムの目標はサッカー界の山頂だ。レイノルズはこう語る。「もちろん目標はプレミアリーグだ。不可能なんてないはずだ。5年、もしくは20年かかるかもしれない。でも、そこを目指すんだ。そのためにはスタジアム改修という最も大きな挑戦が待ち受けているが、それは素敵な悩みでもあるよ」
ハリウッド俳優が所有するクラブの挑戦は、まだ始まったばかりのようだ。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。