4月25日はスペインサッカー界にとって歴史的な日になった。マルベージャでプレーするGKアルベルト・レハラガが同性愛者であることを公表したのだ。
この日マルベージャは連盟2部リーグ(4部相当)に昇格が決定。その記念に、恋人とお祝いのキスをする写真をSNSにアップした。スペイン人の現役プロサッカー選手が同性愛者であることを公にするのは、100年以上の歴史を持つスペインプロサッカー界では初めてのことである。
去る2月13日、ヘタフェに所属しスパルタ・プラハにレンタル中のチェコ代表MFヤクブ・ヤンクトが、現役のラ・リーガクラブ保有選手として初めて同性愛者であることを公表したばかりだった。
「私は同性愛者だ。もう隠すのは止めて自由になりたい」
LGBTは“スペイン男子サッカー界最大のタブー”である。ヤンクトも「もしスペインに住んでいたら公表しなかっただろう」と言っている。
同性愛者に不寛容な国ではない、だが
スペインは決して同性愛者に不寛容な国ではない。むしろ逆だ。2005年、世界で3番目に同性婚を認めた国である。昨年のゲイ・プライド・フェスティバルにはマドリッドだけで60万人から70万人が参加(政府推計)。私の友人たちにも同性愛者やバイセクシュアルは普通にいる。
そんな中、男子プロサッカー界だけが特別に不寛容なのである。
スタジアムでは同性愛者への最悪の罵倒語が今でも聞かれるし、ファンが根性を見せろと選手に要求する際には「タマを出せ!」という表現が普通に使われる。男子サッカーは男性ホルモンがムンムンの世界だと見なされているし、ファンの集団心理は普段は隠している偏見や差別を解放する。LGBT差別も週末のスタジアムで爆発するわけで、ヤンクトが告白できなかったのも無理はない。
現政権党のPSOE(スペイン社会労働党)は、「スペインサッカー界にはLGBTのプロ選手が142人いるはず」と推測している。これは欧州では人口の6%がLGBTという統計を基に、2016年時点の競技人口から算出したものだ。
ただ、個人的にはもっと少ないのではないかと思う。というのも、特に男子については差別と偏見をロッカールーム内や週末のグラウンドで見聞きし続けているうちに、嫌気が差してサッカーを投げ出す少年が大勢いるだろうからだ。
重大な人種差別もサッカースタジアムで起こっている。鬱憤晴らしに暴力的なことを言ってもいい、暴力的に振る舞ってもいい場になっている。社会のガス抜きの場と化している。まさにサッカーは社会の鏡、「裏社会の鏡」である。
Photos: Getty Images
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。