チェルシーの英雄ジョン・テリー(42歳)が、コーチとして再スタートを切った。
元イングランド代表DFは、2018年に引退するまで輝かしい選手キャリアを送ってきた。チェルシーでクラブ歴代3位となる717試合に出場し、5度のリーグ制覇を経験したほかCLやELでも栄冠を手に。イングランド代表としては78試合に出場し、腕章も巻いた。
チェルシーファンから圧倒的な支持を誇り、名DFとしてイングランドフットボールの歴史に名を刻んだことは言うまでもない。しかし、女性問題などもあって彼を毛嫌いする人も少なくなかった。メディアからも何かあるたびに「英雄気取り」と揶揄(やゆ)されてきたのだ。
自信喪失からの再出発
そんなテリーが先日、レスターのコーチに就任した。今月に入って降格圏に陥ったレスターはブレンダン・ロジャーズ前監督を解任し、元ノリッジのディーン・スミスを監督に招へい。そして、アストンビラ時代に彼の元でアシスタントコーチを務めていたテリーにもコーチスタッフとして声がかかった。テリーにとっては、一度は諦めかけた“セカンドキャリア”をやり直すチャンスとなる。
現役時代に抜群のリーダーシップを発揮したテリーは引退後、監督を目指して指導者の道を歩み始めた。だが、2021年にビラのコーチを退任して以降は、古巣チェルシーの下部組織でコンサルタントとして臨時コーチを務める程度。先日、『YouTube』の番組内で「監督業は諦めた」と語っていたのだ。
「自分は監督になると思っていたが、ビラを離れてから他のクラブで監督職に立候補したがチャンスをもらえずに少し意気消沈した。だから監督職は諦めたんだ」
また、コーチ職についても「自分よりも優秀なコーチがいることを知った」と自信を失っていたと明かしていた。そんな彼にとって、今回のアシスタント職は指導者として再起を図るまたとないチャンスだ。
ところが、8年前の発言が今になって蒸し返されているという。
元ウェールズ代表選手との因縁
チェルシーでキャリア晩年を迎えた2015年、テリーは人気解説者として名を馳せる元ウェールズ代表のロビー・サベージから「終わりの始まりだ。彼は数か月後に35歳になるが、とうとう年齢に抗えなくなってきた」と指摘を受けた。
これに対してテリーは記者会見で「選手のレベル」を持ち出してバッサリと反論。
「私はこれまで何度も批判を浴びてきた。リオ・ファーディナンド、ジェイミー・キャラガー、ギャリー・ネビルといった一流の対戦相手だった元選手からの批判ならば受け入れる。だが、ロビー・サベージのような酷いレベルでプレーしてきた者の意見には耳を貸さない」
あれから8年の月日が流れた今、その時のやり取りが再び注目を集めることになった。サベージ本人もその時のことを忘れておらず、英紙『Daily Mirror』の自身のコラムにて古巣レスターのプレミアリーグ残留を願ったうえで、テリーの発言をほじくり返した。
「別にテリーへの個人的な恨みはない。彼がレスターを立ち直らせて残留に導いてくれたらこんなにもうれしいことはない」と前置きをしつつ、「フットボール界でも言葉は大切だ。もし私が、過去に人の意見を尊重せず、選手のことを小馬鹿にしていたなら、自分が指導する選手たちは私のために汗をかいてくれないだろう」と指摘している。
果たして、テリーはレスターの選手たちを奮い立たせることができるのか? スミス体制の初陣となった15日のマンチェスター・シティ戦に敗れたレスターは、生き残りを懸けて残り8試合に臨むことになる。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。