4月17日、バルセロナのジョアン・ラポルタ会長がネグレイラ事件について初めての記者会見を行った。ネグレイラ事件とは、審判委員会の副会長に18年間にわたって総額730万ユーロ(約10億6000万円/会長談)を支払ったことが明らかになっており、審判買収の疑惑があることだ。
2時間に及んだ会見の主な内容は以下の通り。
まずは会長の言い分から。
①支払いには買収の意図も事実もなかった。検察の調査でも買収を証明することはできなかった、とされている。
②審判に関する情報は重要であり、それを得ることは違法でも何でもない。
③支払いはネグレイラ息子の情報収集への対価であり、(審判委員会の副会長だった)ネグレイラ父へのものではない。
④支払いはすべて帳簿に記載された上、銀行口座を通じて行われており、隠す意図はない。
⑤クラブ外部の人や組織がやっていることは話す立場にはない。もし不正があったとすればバルセロナは犠牲者ということになる。
⑥以上のことは、2016年に設立されたコンプライアンス部門の2カ月にわたる内部調査の結論である。
⑦今後、行われる裁判を尊重したい。我われは無罪を信じている。
⑧我われは法治国家にいるが、推定無罪の精神を尊重していないメディアや機関によって激しい公開リンチを受けている。特に、ラ・リーガの会長は無責任な発言で火のないところに煙を立てている。一方、スペインサッカー連盟、UEFA、スポーツ高等委員会などは慎重な態度を採っている。嘘や憶測で名誉を棄損する者には巨額な損害賠償を求める。
⑨レアル・マドリーが私人訴追したことは、前代未聞の皮肉である。なぜなら、彼らは(独裁)体制のチームとしてジャッジの恩恵を受けてきたのだから。70年間にわたって審判委員会の会長は大部分がレアル・マドリーの元フロントだったり、元ソシオだったり、元選手だったりした。
⑩我われが経済的にもスポーツ的にも回復しつつあるタイミングで、このスキャンダルが起きたことは偶然ではない。バルセロナファンは、今こそ一致団結してクラブを支える時である。
メディアの追及に対する回答
ここからは、マスメディアとの一問一答の中で会長が主張したことを記す。
①巨額に聞こえるが、18年間にわたる重要な膨大な情報への対価であることを考慮してほしい。
②(現役の副会長への支払いは利害関係にあるとは考えなかったのか?という問いに)会長就任の2003-04にはすでにあった支払いであり、そのまま維持した。今ならコンプライアンス部門が介入していただろう。
③「中立なジャッジのための支払いだった」というネグレイラの証言は、個人的意見である。クラブの人間がそう指示した事実もない。
④資料が選手や監督に届いていないとしたら、スポーツディレクション部門に届いていたのだろう。
⑤クラブ内部の人間はキックバックなど不正行為を行ってはいない。
⑥(ネグレイラが送った脅迫状については)第三者のことはお話できない。
⑦(UEFAの制裁は裁判終了を待たないが……)制裁はないと信じる。UEFAが公開リンチに加わることがあれば前代未聞だ。
⑧辞任など頭をよぎったこともない。バルセロナを支配しコントロール下に置きたいと考える勢力とは断固戦う。
全体的に厳しい論調
最後に、この会見を受けた反応を紹介しておく(※発言を引用しただけの見出しは除いた)。
●『スポルト』紙(バルセロナ寄り)
「ラポルタがテバス(ラ・リーガ会長)とレアル・マドリーを敵と見なす」
アンケート調査の結果:会長の説明に納得できたかどうか、という問いに対して、ノーが60%、イエスが36%。
●『マルカ』紙(レアル・マドリー寄り)
「ネグレイラ事件。ラポルタは何も明らかにせず、バルサを犠牲者と見なす」
●『エル・パイス』紙(全国紙)
「ラポルタの目的は時間を稼ぎ、UEFAの制裁を避けることだった」
●『エル・コンフィデンシャル』紙(全国紙。この件でスクープ連発)
「ラポルタは被害者の立場で、弁護することに身を捧げた」
●『エル・ムンド』紙(全国紙)
「ラポルタ、ミスを一切認めず、息子への依頼と支払いを正当化。テバスとレアル・マドリーに責任転嫁」
●『ABC』紙(全国紙)
「ラポルタはみなを嘲笑した」
●『エル・ペリオディコ』(カタルーニャの地方紙)
「謎は残ったまま」
●『ラ・バングアルディア』(カタルーニャの地方紙)
「ラポルタの矛盾と確信」
この事件の判決が確定するまで3~5年かかると言われているが、リークやスクープが相次いでいるので、また何かあればこの欄でお知らせしたい。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。