代表ウィーク前最後の試合でヘタフェに敗れたセビージャがホルヘ・サンパオリを解任した。14位という順位だけを見ると安全圏のように見えるが、実際は降格圏と2ポイント差。残留争いのライバル、ヘタフェに敗れて順位でも得失点差でも追い抜かれたのは大きな痛手だったのだが、何よりも負け方が酷かった。
ユスフ・エン・ネシリをベンチに置き、ドリブラーのルーカス・オカンポスを偽CFに起用、CB不足なのに3バックに固執したあげく、またもやボール出しのミスで失点……。
サンパオリは“コンプリカドール”(わざと物事を複雑にする人)と陰口を叩かれていた。謎采配で自らチームを機能不全にするからだ。前述の他にもエン・ネシリのサイド起用、ジョルダンのCB起用、ブライアン・ヒルのSB起用などなど。試合中にポジションとシステムをいじりまくるので選手に紙を渡して指示をせねばならず、怒って破り捨てる選手がいたし、直後に失点するしで全国の笑い者になっていた。
フロントもうんざりだったのだろう。新任者はシンプルな人だった。前へ前へのスタイルでエイバルで名を馳せたホセ・ルイス・メンディリバルである。
アンダルシアにも合ったスタイル
ロペテギ、サンパオリとボールをこねる人、何を考えているかわからない監督が続いたので、真逆のシンプルなサッカー、真っ直ぐ規律を重んじメディアには優しい人物を呼んだ。つまり、ショック療法。残り12試合、カンフル剤を打って瀕死のセビージャを甦らせるには今しかない、ということだ。
ゆえに、3カ月(延長はシーズン後に再度話し合い)という短期契約なのだろう。クラブのフィロソフィや将来的なプロジェクトに合うか合わないかは後回しにされた緊急選出だったわけだ。
戦術は180度変わる。あの乾貴士がいた頃のエイバルのサッカーが帰ってくる。
フォーメーションは前任者の[5-2-3]から[4-4-2]に。敵陣で長い時間を過ごすためにハイライン&ハイプレスに。奪ったボールは直ちに前線に。ポゼッションのための横パス、バックパスは禁止。ロングボールがラインを越えるため、ボール出しのリスクを負わないための有効な手段になる。ヒル、ジョルダン、マルコ・ドミトロビッチと、メンディリバルが育ててステップアップさせた選手たちが新監督の味方になる。
ファンには歓迎されるのではないか。
もともと、血湧き肉躍るような勇猛さが好まれる。アンダルシアは気候だけでなく心も熱いから。観戦者としても、前任者たちのようなボールがあっちこち行くだけでさっぱり前へ進まず、そのうちにロストして失点する欲求不満の自滅スタイルよりも、ガンガン攻めるもハイラインの裏を突かれれば大ピンチというような、常に撃ち合いのわかりやすいハラハラドキドキスタイルの方が、はるかに楽しい。 ソシエダのイマノル・アルグアシル、ベティスのマヌエル・ペジェグリーニ、ビジャレアルのキケ・セティエン、ビルバオのエルネスト・バルベルデ、ラジョ・バジェカーノのアンドニ・イラオラに並び、フィロソフィに共感できる必見の監督がまた増えた。
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Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。