坂元達裕所属のオーステンデが経営危機。マルチオーナーシップの問題点が露呈か
前監督が給料未払いを主張
ベルギー紙『WALFOOT』の報道によると、オーステンデの前監督イブ・ファンデルハーゲがクラブに対して、給料未払いにより民事訴訟を起こすようだ。昨年2月から監督を務めていたファンデルハーゲだが、成績不振のため昨年10月31日に解任されていた。オーステンデは400〜500万ユーロの負債を抱えており、一部選手の給料の支払いが遅れているとも報じられている。
現在、オーステンデの経営権を保有しているのはアメリカのパシフィック・メディア・グループ(以下PMG)、中国系アメリカ人のチェン・リー、パートナー・パース・キャピタルら。アメリカの経営者グループはバーンズリー(イングランド)、カイザースラウテルン(ドイツ)、ナンシー(フランス)、デン・ボシュ(オランダ)、エスビャウ(デンマーク)、トゥーン(スイス)の経営権も持っており、オーステンデは「マルチオーナーシップ」のグループに加わっている。
PMGをはじめとするグループには、かつてMLBのオークランド・アスレチックスのGMを務めたビリー・ビーンが株主に名を連ねている。データを活用した「セイバーメトリクス」によって過小評価されていた選手を発掘し、資金力に恵まれなかったアスレチックスを躍進させて映画『マネーボール』のモデルとなった人物。オランダのAZのアドバイザーに就任してサッカー界に参入した後、バーンズリーをはじめとするPMG傘下のクラブではデータ分析による選手発掘、人工知能を利用した選手の思考プロセスの分析などを行い、テクノロジーを駆使したチーム作りを推進している。
投資家グループは新型コロナウイルスの流行により、2020年に経営不振に陥ったオーステンデを買収。RBライプツィヒU-18の監督を務めていたドイツ人のアレクサンドル・ブレッシンを招へいし、チームの大半を若手選手に入れ替えて激しいハイプレスと攻撃的なスタイルを軸に戦い、前年16位のチームを5位に浮上させた。ブレッシンはその年の最優秀選手に選出されている。
姉妹クラブへの流用疑惑が浮上
オーステンデの成功は、ベルギーリーグの変革を予感させるものとして期待されていたが、2020-21シーズン後にDFテアテ、スコットランド代表DFジャック・ヘンドリー、デンマーク人MFアンドリュー・ヒュルサガーをはじめに多くの選手を放出。主力が大量流出したオーステンデは勢いを継続させることはできず、監督のブレッシンもシーズン途中に当時セリエAに在籍していたジェノアに引き抜かれた。
ブレッシンの後任となったのがファンデルハーゲで、2021-22シーズンはチームを残留に導いている。しかし、同グループのクラブはバーンズリーがリーグ1(イングランド3部)へ、ナンシーがフランス3部へ、エスビャウがデンマーク2部へ降格するなど散々なる状況に陥っており、明らかに歯車が狂い始めていた。
2月9日のベルギー紙『HLN』によると、オーステンデが2021年夏に得た移籍金1500万ユーロが、姉妹クラブのナンシーを助けるために使用されていたと報じられた。現在、ナンシーの会長を務めるポール・ガナイェは2021年にオーステンデの会長を務めていたという関係から、移籍金が横流しされていたのではないかという疑惑が浮上している。
クラブは否定するもサポーターは反発
翌2月10日に出した公式発表で、オーステンデは噴出している疑惑を否定。すべての選手やスタッフに正しく給料が支払われていることを強調し、破産の危機に陥っていないことを明言した。財政的な問題があることは認めつつも「2023-24シーズンのリーグライセンスを引き続き取得できるよう努力する」としていた。
しかし、オーステンデのサポーターはこの発表をまったく信用していないようだ。残留争いのライバルであるズルテ・ワレヘムが元オランダ代表MFルート・フォルメルを筆頭に積極的に補強をしているのとは対照的に、補強が進まないことに不満を抱いている。
練習場に掲げられたサポーターによる横断幕には「PMGは出ていけ」「クラブのカネはどこへ行った?」など、痛烈なメッセージが掲げられている。若くて才能のある選手を高く売却することにしか興味を抱いていないのではないかと思われており、PMGへの信頼を失っている状況だ。
マルチオーナーシップのPMGは8つのクラブを所有しているが、オーステンデを支えるサポーターからすれば姉妹クラブに興味はなく、自クラブこそ最も大切だ。両ウイングバックとして不動のレギュラーを確保している坂元達裕は奮闘しているものの、現在は1部残留圏内まで勝ち点6離された17位と順位は奮わない。今季で1部10年目を迎えるオーステンデは正念場を迎えている。
Photo: Getty Images
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シェフケンゴ
ベルギーサッカーとフランス・リーグ1を20年近く追い続けているライター。贔屓はKAAヘントとAJオセール。名前の由来はシェフチェンコでウクライナも好き。サッカー以外ではカレーを中心に飲食関連のライティングも行っている。富山県在住。