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代表引退に「納得できない」セルヒオ・ラモス。難しい、偉大な選手の引き際

2023.02.28

 2月23日、突然セルヒオ・ラモスが代表引退を発表した。まずは彼の長い声明文の一部を読んでもらおう。

 「今朝、現代表監督から電話が来た。戦力として計算していないし、私のレベルやキャリアと無関係にこれからも計算するつもりはない、と言われた。代表引退はもっと先のことだと思っていたし、数々の栄光に相応しい後味の良い最後になると思っていたので大変残念だ」

 「自分の意志やプレーレベルが及ばないことで代表キャリアが終わるのならわかるが、年齢とか、私が感じたような他の理由で終わるのは納得できない」

 「モドリッチ、メッシ、ペペを見ていて憧れと嫉妬を感じる。サッカーにおける本質、伝統、価値、メリット主義、公正さ。悲しいことにサッカーはいつも公正なわけではなく、サッカーにおける決定は常にサッカーだけが理由だとは限らない」

 つまり“サッカー的なプレーのレベルや出来で戦力外となったわけではない。裏に何かある”と主張しているわけだ。ルイス・デ・ラ・フエンテ監督の名前すら出していないことに怒りのほどがうかがえる。就任の際にはラモスの再招集もあると言っていたが、あれは社交辞令だったようだ。

 出場180試合は歴代最多で、2度の欧州制覇(2008、12)、1度の世界制覇(2010)にレギュラーSB・CBとして、キャプテンとして貢献した大功労者と言っていい。だが一方で、ロッカールームでの影響力が大きくなり過ぎ、監督に煙たがられているような節があった。

180試合到達以降、1度も声はかからず

 2021年3月のW杯予選、ルイス・エンリケは負傷中のラモスを強行招集。初戦に先発で45分間プレーさせ179試合出場を達成させると、第3戦の終了間際に4分間だけ出場させて180試合出場を達成させた。

 そして以降、二度と招集することはなかった。

 まるで、180の大台に乗せさせたことで“義理は果たした”と言わんばかりに。強行招集は信頼の証ではなく、むしろその逆だったのだ。

カタールW杯予選コソボ戦でピッチに立つラモス。結果的にこれが代表での最後の勇姿となった

 大事なW杯予選を個人記録達成のために使い、本調子ではない選手を呼んだことでルイス・エンリケは批判された。だが、それはラモスを敬い遠ざけて“ルイス・エンリケFC”を作るために必要な手続きだった。

 偉大な選手の引き際は難しい。かつて、ルイス・アラゴネスがラウールを外すのを決めた時には、和解会見を開くことを余儀なくされたことがある。雑音なく世代交代を進めるには、両者が笑顔で握手する姿を見せるしかなかったのだ。

 最近では自分の存在がチームの障害にならないよう、身を引くケースが増えている。ピケはロシアW杯終了後に潮時を察して自ら代表引退を発表。ブスケッツはカタールW杯後に連盟の慰留を振り切り、惜しまれながら引退した。ラモスも二人のような終わり方をしたかったのだろうが、そうはならなかった。

Photos: Getty Images

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スペイン代表セルヒオ・ラモス

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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