12月8日、ルイス・エンリケが代表監督を解任された。ワールドカップのラウンド16でモロッコに敗れた後、去就については「連盟会長と話し合った後に決める」としていたが、結局その話し合いは持たれないままで、12月末の契約終了を待たずに途中解任となった。解任を告げたホセ・フランシスコ・モリーナSDの退任も発表された。
敗退で批判が噴出
大会前まで、ルイス・ルビアレス連盟会長はルイス・エンリケに全幅の信頼を寄せていた。その証拠に、EURO2020でベスト4入りした後、一度契約更新オファーをしている。この時はルイス・エンリケが「W杯の結果が出てから」と慎重に拒否していたので、今回の早期敗退にも続投の見方は少なからずあった。
カタールでは若いチームの脆さが出たが、4年の経験を積んだ次の大会では飛躍が確実、と評価するサッカー関係者も少なくなかった。
連盟の態度はなぜ急変したのか?
一つは不人気。
敗退後のアンケート調査では、ファンの7割が「監督失格」と評価。大会から追い出された相手が大国ではなく「格下」と見下していた隣国だったのが大きかった。
大会中、ルイス・エンリケはストリーマーに変身して若者の人気獲得に成功した反面、メディアとの対立を深めていた。
日本戦後の会見で、若いチームの経験不足とセルヒオ・ブスケッツ、ペドリ、ガビの疲労蓄積を指摘されると、「メディアの典型的な物言いだ」と鼻で笑って一蹴。しかし、モロッコ戦ではメディアの指摘が的中する格好で敗退した。結果を出していたので黙っていたメディアの恨みが解任要求として一気に噴出することになった。
擁護を続けたが結果は残せず
もう一つは連盟の失望。
歴代最高の高待遇で迎え、相次いだコーチの解任劇の際にも擁護し、代表監督の重要な仕事であるPR活動もしないという要求を呑んでもいた。ストリーミング活動にしても、蚊帳の外にされた広報部は面白くないだろうし、爆弾発言をされる恐れもあったのだが許可した。すべては2010年W杯優勝後から続く下降傾向から抜け出すためだった。
だが、終わってみると2014年大会、2018年大会に続き今大会もわずか1勝。何も変わっていなかった。
解任と同時に、U-21代表を9年間指揮したルイス・デ・ラ・フエンテのフル代表昇格が発表された。後任人事を急いだのは、話題を新監督に集めて連盟に批判の矢が向けられるのを避けるためだろう。新監督は61歳のベテランで、クラブを指揮した経験がほとんどない、という前監督とは180度異なるプロフィールの持ち主。“ルイス・エンリケFC”は解体され、スペインの未来はまたご破算となった。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。