世界中のチームが集うワールドカップは、チーム戦術のバリエーションが豊富だ。それはゴールキックの蹴り方にも表れているようで、各チームが様々なパターンのゴールキックを試みている。
グループステージ第1節の16試合では、計360本のゴールキックがあったという。パスがつながったパターンもあれば、すぐに相手に奪われてしまうシーンもあった。そんなゴールキックについて、スポーツ専門サイト『The Athletic』が全チームのパターンを分析し、一言で表現しているので紹介しよう。
日本のゴールキックは「散弾銃」?
まずは日本代表だ。歴史的な逆転勝利を収めた11月23日のドイツ戦は、相手のハイプレスにさらされることも多く、無難な策をとったようだ。ゴールキックのパスの行方をまとめた「分布図」を見ると、ショートパスと同じくらい、右サイドへのロングキックも目立っており、ペナルティボックス付近と右ウィングのエリアが赤く染まっている。そのため『The Athletic』は、日本のゴールキックについて「明確なプランを見出すのは難しい」として「散弾銃」という言葉を据えた。
後半に逆転するまではショートパスをつなぐことが多かった日本だが、相手のプレスに追い込まれてロングボールに逃げることになった。しかし、83分に逆転してからは、リスクを冒さずにゴールキックを前線に放り込んだ。
日本に逆転負けを喫したドイツのゴールキックは「悲惨」と評された。前半こそ好きにパスを繋げていたドイツだが、後半は日本の[3-4-3]のプレスに手を焼くことに。ゴールキックからショートパスを繋いだが、すぐに日本のプレスの餌食になってボールを失った。それでもロングボールに切り替えず、日本のプレスを招き続けたため「教訓を学ばなかった」と厳しい評価を受けた。
全くロングボールを蹴らなかったのはアルゼンチンだ。分布図を見ると、色が付いているのはペナルティエリア周辺だけ。しかし、問題は4~5本のショートパスをつないだ後。驚くほど高いDFラインを敷きながらハイプレスを仕掛けない、サウジアラビアの独特の戦術に翻弄されることになった。ゴールキックから中盤の底までは簡単にパスが回るが、それ以降はサウジアラビアのコンパクトな人海戦術の前に行き詰まった。さらに、逆転された後は低い位置から相手のDFラインの背後を狙うもパス精度を欠いた。そのためアルゼンチンのゴールキックに対する評価は「メッシー」。これは英語の「Messy(乱雑)」であり、Messiの「誤植ではない」という注意書きが添えられていた。
ショートあり、ロングあり
クロアチアもロングボールを蹴らなかった。「技術の高い選手を輩出することで知られる彼らがショートパスを多用したのはうなずける」と記事は綴っている。そのため、彼らに添えられた一言は「こだわる」で、分布図を見ると自陣ボックス内しか色が付いていなかった。
好評を得たのはスイスだ。彼らもロングボールを蹴らずにショートパスを繋いだが、GKがCBに渡すワンパターンではなかった。後半途中からはGKヤン・ゾマーではなく、CBマヌエル・アカンジがボールをセットして、右サイドで少し高い位置を取った右SBシルバン・ビドマーにパスを繋ぐなど、試行錯誤が見られた。そのため「機転が利く」という評価を受けた。
反対にショートパスがなかったのはポーランドだ。アメリカの大御所アーティストのアルバムのタイトル名を出して「ライオネル・リッチーと同じで“バック・トゥ・フロント”」と説明。平均身長が低いメキシコが相手だったこともあり、GKボイチェフ・シュチェスニーはロングボールを選択。エースのロベルト・レバンドフスキを目掛けて蹴り続けたため「ダイレクト」と評された。
2トップの一角、FWミカエル・エストラーダをロングボールで狙い、そのこぼれ球にエースのエネル・バレンシアが反応したエクアドルは「効果的」という評価。同じくロングボールが多かったオーストラリアについては「GKマット・ライアンが3番ウッドを取り出した」と表現されている。
このように一つのプレーを取ってみても千者万別。だからワールドカップは面白いのだろう。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。