2019年にクラブ史上3番目となる1億2000万ユーロ(約170億7000万円)の移籍金額を注ぎ込んで獲得したアントワーヌ・グリーズマンとバルセロナとの関係が間もなく終了する。今季終了後、アトレティコ・マドリーが2000万ユーロ(約28億4500万円)で買い取ることで合意に向かっているのだ。
これで、60分を過ぎてから投入、という奇妙な起用法も終了することになる。グリーズマンの契約には、招集された試合の50%以上で45分間をプレーした場合、今季終了後に4000万ユーロ(約56億9000万円)で買い取らねばならない、という条件が付いていた。
この高額強制買い取りを避けるためにアトレティコ・マドリーが立てたプランが、60分以降に出場させる、というものだった。合意間近であることを知ったシメオネは、グリーズマンを10月4日のUEFAチャンピオンズリーグ、クルブ・ブルッヘ戦で先発させている。
双方大損の移籍劇
振り返れば、バルセロナとグリーズマンの関係は「双方大損」というものだった。1億2000万ユーロから2000万ユーロに市場価値が大暴落した、というのがその証拠なのだが、それだけではない。
バルセロナとグリーズマンの不幸は移籍の1年前、2018年夏に始まる。
バルセロナからのオファーを受けたグリーズマンは返事を保留。6月放送のテレビ番組『決断』内で発表するという手に出る。
番組を制作したのがジェラール・ピケの所有する会社で、事前にピケ自身が「みんなで見よう」とPRしていたこともあり、バルセロナファンもフロントも「Yes」の返事は疑わなかったが、馬鹿げたドキュメンタリーもどき、ミュージックビデオまがいを見せられた末の答えは「No」。ジョゼップ・マリア・バルトメウ前会長以下がグリーズマンとピケに激怒した経緯があった。
その1年後にバルセロナ移籍が実現するのだが、反感を買ってバルトメウ前会長とクラブのイメージは大きく傷付き、グリーズマンの方も大損したことが先月『エル・ムンド』紙に暴露されている。
移籍で年俸はおよそ半額に…
グリーズマンは18年にアトレティコ・マドリーとの間に5年総額1億ユーロ(約142億2700万円/税別)の契約を結んでいたのだが、19年のバルセロナとの契約は5年間で9800万ユーロ(約139億5000万円/税込)。超高額所得者だから所得税の最高税率が適用され、手取りにすると約半額にダウンした計算だ。
それでもメッシとともにプレーし、アトレティコ・マドリーでは獲得不可能なタイトルを手にすれば元が取れると踏んでいたわけだが、実際に獲得できたのはコパ・デルレイの1冠のみ。実働2年で102試合に出場し35ゴール、17アシストと期待を裏切った後、3年目の昨季からバルセロナの年俸枠を下げるためにレンタルに出されていた。
『SPORT』紙によれば、バルセロナに残留していた場合、5年契約の最後に当たる来季の年俸はボーナス込みで最高2000万ユーロ(税別)に達していたとされる。一方、来季以降の新契約でアトレティコ・マドリーはグリーズマンの年俸を400万ユーロ(税別)に下げたい意向だという。
放漫経営、移籍金バブルを象徴する関係が落ち着くべき場所に落ち着いたというべきか。ほくそ笑んだのは、レアル・ソシエダから3000万ユーロ(約42億7000万円)で買った選手をバルセロナに1億2000万ユーロで売り、今回2000万ユーロで買い戻すアトレティコ・マドリーということになった。
Photo: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。