ユナイテッドやアーセナル、リバプールにもホーランド獲得のチャンスがあった?
今季マンチェスター・シティで怪物ぶりを発揮し続けているノルウェー代表FWアーリング・ホーランド(22歳)だが、実はもっと以前にプレミアリーグにやってくる可能性があったという。
イングランドで活躍した元プロ選手を父に持つホーランドはイングランドで生まれた、父と共にノルウェーに戻ってノルウェー南西部のブリンで育った。そしてブリンFKの下部組織で腕を磨いた後、オーストリア、ドイツと渡り歩き、今季からシティに所属している。しかし、彼を16歳の時に引き抜いたモルデの元スカウトによると、ホーランドは10代の頃にイングランドに渡っていてもおかしくなかったという。
才能を見誤ったスカウトたち
ブリンで台頭したホーランドは2017年2月、16歳の時に国内の強豪クラブ、モルデに引き抜かれた。そこでスカウトを務めていたジョン・ビック氏は、ホーランドの練習姿を見て大興奮し、当時チームを率いていた監督に“ある進言”をした。当時のモルデの指揮官というのが、マンチェスター・ユナイテッドのOBにして、後にユナイテッドの監督も務めるオーレ・グンナー・スールシャールだった。
モルデに加入したホーランドがファーストチームで試合に出始めた頃、ホーランドの練習風景を見たビック氏は、すぐに監督の元へ飛んで行った。「私はスールシャール監督に『すぐにユナイテッドの知り合いに連絡すべきだ。彼は信じられない選手だよ』と伝えたんだ」。ビック氏はスポーツ専門サイト『The Athletic』にそう語っている。
圧倒的な実力に衝撃を受けたビック氏は、過去に自身が一緒に仕事をしたことのあるユナイテッドにこの逸材の存在を知らせようとしたのだ。「スールシャールは電話を取ってユナイテッドに連絡したよ。だからユナイテッドはホーランドについて当時から知っていたんだ。その後、彼らがホーランドの動向を追い続けたかどうかは知らないがね」
しかし、ユナイテッドがホーランドを引き抜くことはなかった。もしかするとタイミングの問題だったのかもしれないが、ビック氏はイングランドのスカウトの問題も指摘した。ノルウェーリーグで活躍し始めたホーランドはすぐに注目を集めるようになり、リバプールやアーセナルといったクラブも興味を示した。しかし、多くのスカウトがホーランドの才能を見誤っていたそうだ。
ビック氏によると、イングランドの大半のスカウトはホーランドを「ターゲットマン」と決めつけていたそうだ。既に190cmを超える身長に成長していたホーランドは、一見するとターゲットマンに見えたのだ。「でも、私はプレミアリーグのスカウトたちに説明したんだ」とビック氏。「私は彼らに『ターゲットマンとして評価しないでくれ。その先を見てくれ』と話したんだ。ホーランドはライン間でもプレーするし、スペースにも走り込むし、ボックス内でも素晴らしい。そういう選手だったのさ」
しかしビック氏によると、イングランドのクラブは「ストライカー」や「CB」を型にはめる傾向にあったという。そのため体の大きなホーランドは「ターゲットマン」と決めつけられてしまったそうだ。「リバプールやアーセナルには獲得するチャンスがあった。彼らはホーランドを見に来ていたのだからね。しかし彼らは、背が高くて屈強なNo.9を見ると『ターゲットマン』と決めつけてしまったんだ」
ビック氏は「間違っているのは俺なのか?」と悩んだこともあるという。もちろん、今のホーランドの活躍を見れば、ビック氏が正しかったことは言うまでもない。しかし、既に大型FWに成長していたホーランドが誤解されたのも仕方ないだろう。外部の人間は、ホーランドの成長曲線を知らなかったのだから。
圧倒的な個性に魅了されたスカウト
ビック氏がホーランドに注目するようになったのはモルデが獲得する1年半前、2015年9月のことだった。ノルウェーとスウェーデンのU-15代表チームが対戦した試合で、ホーランドのあるプレーに心を奪われたという。試合後半のキックオフで、ホーランドはハーフウェイラインから見事なキックオフゴールを決めたのだ。
ビック氏は当時を振り返る。「ホーランドは隣の選手と何か話していたんだ。スウェーデンのGKがボックス付近でストレッチしているのに気づいたようだった。私は『まさかね』と思ったよ。でもホーランドは本当にGKの頭上を抜くシュートを決めてみせたんだ。私が惚れたのは彼のテクニックではなく、本気でシュートを狙うその度胸だった。
「ノルウェーの子供たちはみんな同じような性格なんだ。そうじゃないと変な奴に見られるからね。でもホーランドは、そんなことを気にしていなかった」とビック氏はホーランドの圧倒的な個性に熱中したという。
さらにビック氏によると、ホーランドは12、13歳頃までは背が低かったという。だが2017年にモルデに加入した後、一気に10~12cmほど成長したという。そういう経緯があり、単なるターゲットマンではなく、何でもできる“究極の万能型ストライカー”が完成されたのだ。
そんな逸材を、プレミアリーグの他のクラブにも僅かな移籍金で獲得するチャンスがあったというのだ。逃した魚は大きいというが、これほど大きいとは誰も気づくことができなかった。ジョン・ビック氏以外は。
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Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。