スコティッシュ・プレミアリーグ第5節は、セルティックの大勝が話題を集めた。8月28日に行われたダンディー・ユナイテッドとの一戦で、日本代表FW古橋亨梧(27歳)がハットトリックを決めるなど、敵地で「9-0」の勝利を収めたのである。
古橋以外にもFWリエル・アバダがハットトリックを達成するなど攻撃陣が猛威を振るったセルティックは、これで開幕から5連勝。リーグ連覇に向けて申し分ないスタートを切った。その一方で、今季のリーグ戦で一度も勝てていないのがダンディーUである。昨季は4位と健闘したチームに一体何が起きているのだろうか?
「監督として恥ずかしく思う」
ダンディーUは昨季、タム・コーツ前監督の下で久しぶりにトップリーグ4位という好成績を残し、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグの予備選出場権まで獲得した。だが、成功を収めた指揮官はすぐにステップアップを求め、「選択肢を探りたい」として今年6月に退任。クロアチアのリエカの監督に就任する噂も出たが、最終的にはハンガリーのブダペスト・ホンベードを率いることになった。そこでダンディーUは、過去にサンダーランドやハイバーニアンで監督経験を持つジャック・ロスを招聘したのだ。
ロスはハイバーニアン時代の2020-21シーズンにチームを2強に次ぐ3位に導き、国内カップ戦でも決勝に進出した実績を持つ指揮官で「国内外からいくつもオファーがあったが、どれも興奮できるものではなかった。しかしここでの話にはワクワクした」と就任時に意気込んでいたが、蓋を開けてみれば苦しい戦いを強いられている。
本拠地でセルティックに9失点を喫した指揮官は試合後、記者に囲まれながら「我われはフィジカル面も戦う姿勢も足りなかった。“マネキンを置いた練習”のような失点を繰り返した。それが正しい表現だと思う」と肩をすくめた。
「自分のチームや選手に対して言いたい言葉ではないが、その通りなんだ。そう言っている私も、1人の人間として、1人の監督として恥ずかしく思う。私は監督業に誇りを持っているからね。選手たちも同じ気持ちであってほしい」
わずか1カ月で進退問題に
前半のうちに4失点すると、何百人ものサポーターが席を立ってしまった。「どんな試合であろうが、こんな大差で負けることは許されない」と『Daily Record』紙に語るロス監督。「ファンはそう感じているだろうし、責任は私にある。サポーターに謝らなければいけない。この内容はプロのユニフォームを着るのに値しないものだ」と反省の弁を述べた上で「だが、チームを絶対に立て直すという私の意欲は変わらない。私はこれまで長いこと監督業に身を置いてきたし、それなりに結果を出してきたからね。だから恥をかいたら、それを絶対に払拭する」と前を向いた。
そして進退問題については「それはクラブの上層部に聞くべきだ」と続投の意思を表明し、「これまでのキャリアでもそうだが、私には責任感があるし、選手たちを擁護するタイプだ。しかし選手たちも責任を持たなくてはいけない」と“マネキン”たちの奮起を期待した。
「0-9」のスコアは、セルティックにとってリーグ戦のアウェイゲームにおけるクラブ記録となる大勝利。2013年に発足されたスコットランドのプロリーグ組織『SPFL』においても、アウェイチームによる最大の勝利記録として歴史に刻まれることになった。
そうなると、やはり指揮官の去就に注目が集まる。元セルティックのスコット・マクドナルドは「かなり重圧を感じているはずだ」とロス監督の現状を『Sky Sports』にて危惧した。「チームは前任者から引き継いだもので、自分のやり方でチーム作りができなかったのかもしれないが、監督を引き受けた以上はチームを機能させないといけない」と付け加えた。ダンディーUのOBである元スコットランド代表DFリー・ウィルキーも「選手たちは監督のためにプレーしていない」と紙面で指摘した。
開幕からわずか1カ月で監督の進退問題にまで発展するのは酷にも思えるが、仕方ない気もする。彼らが大敗を喫するのは、これが初めてではないのだ。ロス政権は今季の公式戦で1勝しているが、それが悪夢の始まりでもあった。8月上旬にヨーロッパカンファレンスリーグ予備選でオランダのAZと対戦した彼らは、ホームでの初戦を1-0で制して称賛を集めたが、1週間後のセカンドレグで「0-7」という衝撃の大敗。スコットランド勢における欧州カップ戦での大敗記録に並ぶ屈辱を味わったのだ。
一度ならず二度も大敗を喫した監督は、いくら“マネキン”のせいであったとしても、これ以上の失態は許されない。8月31日のリーグカップと、週末のリーグ戦が正念場かもしれない。
Photo: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。