今月6日、女子EUROがサッカーの母国イングランドで華々しく幕を開けた。マンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールドトラッフォードで行われた開幕戦は今年4月の時点でチケットが完売。結局、6万8871人がスタンドを埋め尽くし、1-0でオーストリアを下したイングランドに声援を送った。
前回、イングランドで女子EUROが開かれたのは2005年のこと。あれから17年、女子サッカー界は――特にイングランドの女子サッカー界は――劇的な変化を遂げた。『BBC』が17年前の大会と今大会を比較しているので紹介しよう。
決勝戦はソールドアウト
2005年の大会は現在の半分の8チームが参加し、全15試合が行われた。会場となったのは主にイングランド下部リーグのクラブの本拠地。今大会のように聖地ウェンブリー・スタジアムが使用されることはなかった。それどころか、会場の1つとなったのはウォリントンのラグビーリーグのスタジアムだったのだ。
今大会は、開幕戦が7万人近く入り、ウェンブリーでの決勝戦も8万7200枚のチケットが完売している。既に2017年のオランダ大会の倍以上となる50万枚のチケットが売れており、歴代最多記録を打ち立てている。一方で17年前はと言うと、全15試合を合わせて約12万人の観客数に留まった。15試合のうち5試合も観客数が2000人を下回り、プレストンで行われたグループリーグのフランスvsイタリア(3-1)に至っては957人しか観客が入らなかった。
当時は女子サッカーへの偏見もあった。決勝の数日前にはUEFAのレナート・ヨハンソン当時会長がスポンサー企業について「雨の中、可愛らしい女の子たちが汗を流してプレーする姿を企業は利用すべきだ。お金になる」と発言して物議を呼んだ。その1年前にはゼップ・ブラッター(当時FIFA会長)が「バレーボールのように、もっと女性らしい服を着せるべきだ。タイトなショーツとかね」と語っていたという。
当然、選手を取り巻く環境も違った。イングランドでは2018年から女子も完全なプロリーグが始まり、選手たちも今はサッカーに専念できている。しかし17年前の大会では、そうもいかなかった。当時のイングランド代表はセミプロ選手ばかり。チームを率いていたホープ・パウエル代表監督も「イングランドの女子サッカーは二流のスポーツ」と大会前に語っていたほどだ。
アーセナルに所属していたFWケリー・スミスは、本大会の半年前まで郵便局でアルバイトをしていたという。遠藤純が所属するエンジェル・シティーFC(米国)でスポーツダイレクターを務めるエニオラ・アルコ(35歳)も当時は18歳。若手有望株として本大会に出場したが、まだ学生だったため試験勉強のため大会前の合宿に参加できなかったそうだ。
17年前の大会が転機に
そんな環境にあったイングランド女子代表は、初戦のフィンランド戦こそ勝利するも、その後の2試合を落として最下位でグループリーグ敗退となった。しかし、今回は違う。ワールドカップでは2大会連続でベスト4に入っており、初の栄冠を目指して母国での大会に臨んでいるのだ。
そんなイングランド女子サッカー界に変革をもたらすきっかけになったのが、やはり17年前の大会なのだ。今大会に比べれば観客数は少なかったが、それでもイングランドの3試合と決勝戦だけは2万人ほどの観客を集めたのだ。
そして開幕戦となったフィンランド戦の勝利は、イングランドにとって8大会ぶりのEURO本大会での勝利だったのだ。そのフィンランド戦で後半追加タイムに決勝ゴールを決めた当時17歳のカレン・カーニーは「今でも知らない人から女子EURO 2005の話をされる。あれをきっかけに女子サッカーを見るようになった人がたくさんいるわ」と振り返っている。
あれから17年。イングランド女子代表は世界有数の強豪チームへと成長を遂げ、初の栄冠を目指してピッチの上で躍動している。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。