サブスク独占時代終焉か。人気低下を懸念するブンデスリーガが方針見直しへ
長谷部誠と鎌田大地を擁するフランクフルトが今季のUEFAヨーロッパリーグを制覇した。欧州のコンペティションで4強入りを果たしたドイツ勢唯一のチームということもあり、準々決勝以降はドイツ国内の大半のサッカーファンがSNS上でもフランクフルトを応援する姿勢を見せていた。
このフランクフルトへの一般的なファンの関心の高さを支えていたのは、民放での無料放送だったことがデータによって判明したようだ。準決勝1stレグを終えた5月4日の『シュポルトビルト』が報じている。
無料放送で広い関心の再獲得へ
これまでドイツ・ブンデスリーガの成長を支えてきたクリスティン・ザイフェルトDFL(ドイツ・サッカーリーグ機構)CEOの後任に、46歳のドナータ・ホプフェンが就任した。『アクセンチュア』からキャリアを出発させ、『ビルト』を擁するドイツ最大の新聞・出版社『アクセル・シュプリンガー』社のデジタル化を担当し、経営責任を担う重役も務めたキャリアを持つ。
彼女のDFLでの仕事は、出鼻から難しいものになった。2020年以降、36クラブ合計で10億ユーロ(約1350億円)にも上っている損失を補填し、同時に海外放映権料を再び他の強豪リーグと競合できるほどまでに引き上げなければならない。
そのため、DFLは今後の長期戦略を練るためのグループを構築して動き出した。そのメンバーとは、バイエルン、フライブルク、ダルムシュタット、フランクフルトという4クラブの経営責任者とホプフェン自身の5人だ。
これまで大手メディアのデジタル部長やコンサルタントとしてメディアやデジタル化の戦略を手掛けてきた彼女の頭には、いくつかのアイディアがあるようだ。
そのうちの1つが、『DAZN』や『スカイ』のようなサブスク形式の有料放送に独占させてきた放映権を、ファンたちが無料でアクセスできる一般のテレビ局にも提供するというものだ。これまでは有料メディア間で放映権が分散され、クラブのサポーターですら試合の放送チャンネルがわからなくなっている状況に陥り、ブンデスリーガやサッカー観戦そのものへの関心が薄らいでいた。
それを危惧したDFLは、現行の契約が切れる25-26シーズン以降、民放での放送を増やす方向で調整を進めている。先に触れたEL準決勝1stレグのウエストハムvsフランクフルト戦では753万人(視聴率20.4%)が視聴しており、この数字は有料チャンネルを大きく上回るという。
すでに海外放映においては、有料チャンネルの視聴者数でプレミアリーグをはじめとする競合リーグに大きく水をあけられており、無料で見られる通常のテレビでの放映に力を入れる方針を固めている。これまでの高額な放映権料で直接収入を獲得するやり方ではなく、幅広く認知されるために一般向けのテレビの放映を通じて新規のファン獲得を目指すつもりだ。
海外放映権料でスペイン超えを目指すも…
海外放映権料だけではない。投資家による参入でもライバルリーグに遅れを取っている。スペインのラ・リーガとフランスのリーグ1は、ルクセンブルクに拠点を置く世界有数の投資ファンド『CVCキャピタルパートナーズ』と巨額の契約を締結。ラ・リーガには27億ユーロ(約3645億円)、リーグ1には15億ユーロ(2025億円)の融資が行われる。
これによりCVCはラ・リーガから今後50年間に渡ってリーグの収益の11%と肖像権の11%を保有できることになる。リーグ1の場合は、CVCがリーグ内部にマーケティング子会社を新設し、放映権料の売買に参与するという。チームの認知度に応じて分配金も調整される予定で、パリ・サンジェルマンにいたっては15億ユーロのうち2億ユーロを受け取ることになっている。
CVCからはブンデスリーガにも話があり、海外放映権および肖像権の25%を譲渡する計画もあったが、各クラブからの反対によって立ち消えになっていた。また、DFLの海外部門のマーケティング子会社を設置し、複数の少数株主によって放映権料の売買を運営する計画も立ち上がり、興味を示した30もの企業から10社ほどまで絞り込んだが、この計画も各クラブの反対に遭って頓挫した。
だが、DFLの監査委員長も兼任するドルトムントのハンス・ヨアヒム・バツケCEOもライバル各国の動きを察知し、リーグの海外競争力の低下を懸念し始めている。とりわけ、収益で欧州2番手を争うスペインとは海外放映権料で大きく差をつけられている。スペインの7億ユーロ(945億円)に比べて、およそ4分の1の1億8000万ユーロ(243億円)に留まっており、将来への危機感が強まっている。
デジタル化の動きについていくために、非代替性トークン(NFT。主にゲーム用のカードの海外での版権)の導入やSociosに代表されるファン向けのトークン(主にユニフォームのデザインやスタジアムで流れる曲などのマーチャンダイズの決定の際に票を投じる権利を得られる)の導入も視野に入れている。
だが、前者はともかく、後者は国内のサポーターによって猛反発に遭っており、導入は難しい。これまではサポーター組織の代表たちがクラブと直接やり取りしてきたが、トークンと専用プラットフォームが導入されればさらなる支出を強要されることになる。さらに、トークン自体は暗号通貨に変わりはなく、それらが透明性に欠ける大きなリスクをはらむ商品であることは頭に入れておく必要がある。
これまで収益規模では、イングランドのプレミアリーグに続く欧州2番手の座を維持してきたドイツ・ブンデスリーガ。だが、海外での市場拡大に苦戦し、外資の融資の受け入れにも国内クラブやサポーターからの猛反発を受けており、収益の拡大に苦しんでいる。
国外に大きな市場を持つスペインやフランスは海外資本からの融資を積極的に受け入れており、ドイツリーグ運営の責任者たちは難しい舵取りを強いられている。まずは無料で見られるテレビによる放送枠を確保することで、国内ファンの関心を引き止めることから出発することになりそうだ。
Photos: Getty Images
Profile
鈴木 達朗
宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。